エンパグリフロジンで心血管イベントは防げますか?

ご訪問ありがとうございます。

 

今更ながら、SGLT-2阻害薬エンパグリフロジンの論文である、EMPA-REGを読んでみました。

 

参考文献 Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378978

 

PMID:26378978

 

研究デザイン:ランダム化比較試験(非劣性試験) 非劣性マージン1.3

 

論文のPECO

P:18歳以上の心血管イベント高リスクの2型糖尿病患者7028名

BMI<45、eGFR>30ml/min/1.73m2HbA1c=7.0~9.0%(12週以内に血糖降下薬の服用無しの場合)、7.0~10.0%(12週以内に血糖降下薬服用有りの場合)

E:エンパグリフロジン(10 or 25mg)

C:プラセボ

O:(Primary) 心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

 (Secondary)Primary outcomeと不安定狭心症による入院

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている(computer-generated random-sequence)

 

一次アウトカムは明確か?

→明確といえる

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→二重盲検されている。しかし、HbA1cの測定値によりブラインドが見破られている可能性あり

 

隠蔽化されているか?

→隠蔽化されている(interactive voice- and Web-response systemが用いられている)

中央割り付け

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる

 

ITT解析を行われているか?

→mITT解析されている

 

サンプルサイズ

→691件のイベント発生(パワー90%)

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→追跡率=99.2%

 

追跡期間

→中央値3.1年

 

結果

【ベースライン】・・・Supplementary Appendixより↓

http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1504720/suppl_file/nejmoa1504720_appendix.pdf

平均年齢:プラセボ群:63.2±8.8歳 エンパグリフロジン群:63.1±8.6歳

BMIプラセボ群:30.7±5.2 エンパグリフロジン群:30.6±5.3

HbA1cプラセボ群:8.08±0.84% エンパグリフロジン群:8.07±0.85%

糖尿病歴10年以上:プラセボ群:57.4% エンパグリフロジン群:57.0%

 

【アウトカム】

(Primary outcome)心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

プラセボ群:43.9/1000人年vs エンパグリフロジン群:37.4/1000人年

RR=0.86(95%CI:0.74~0.99) 非劣性p<0.001 優越性p=0.04 NNT=63

 

心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、不安定狭心症による入院の複合アウトカム

プラセボ群:52.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:46.4/1000人年

RR=0.89(95%CI:0.78~1.01) 非劣性p<0.001 優越性p=0.08

 

総死亡

プラセボ群:28.6/1000人年vs エンパグリフロジン群:19.4/1000人年

RR=0.68(95%CI:0.57~0.82) p<0.001 

 

心血管死亡

プラセボ群:20.2/1000人年vs エンパグリフロジン群:12.4/1000人年

RR=0.62(95%CI:0.49~0.77) p<0.001

 

非致死性心筋梗塞

プラセボ群:18.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:16.0/1000人年

RR=0.87(95%CI:0.70~1.09) p=0.22

 

非致死性脳卒中

プラセボ群:9.1/1000人年vs エンパグリフロジン群:11.2/1000人年

RR=1.24(95%CI:0.92~1.67) p=0.16

 

心不全による入院

プラセボ群:14.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:9.4/1000人年

RR=0.65(95%CI:0.50~0.85) p=0.002 

 

【有害事象】

生殖器感染症

(男性)プラセボ群:1.5% vs エンパグリフロジン群:5.0%

(女性)プラセボ群:2.6% vs エンパグリフロジン群:10.0%

 

骨折

プラセボ群:3.9% vs エンパグリフロジン群:3.8%

 

感想

 エンパグリフロジン服用により、プラセボに対し心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムはRR=0.86(95%CI:0.74~0.99)となり非劣性が示され、かつ優越性も示されている。

 しかし、個々のアウトカムを見てみると、心血管死亡は有意に減っているが、非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中は有意差無しとなっている。どのような原因による死亡が増えているのだろうか。心不全

今回の研究の対象患者は、糖尿病期間10年以上が57%程度と比較的罹患期間が長い患者が対象となっている。

 Primary outcomeの95%信頼区間上限は0.99となっており、今回の解析ではITT解析よりは有意差の出やすいmITT解析を行っているため、優越性に関してはITT解析を行うと有意差無しとなってしまう可能性もあるかもしれない。

 この研究では、CANVAS同様にエンパグリフロジンの用量10mgと25mgを合体させたPoolとして解析している。本来なら10mg服用群と25mg服用群に分けて解析すべきなのではないだろうかと思う。

 CANVAS programでは骨折がカナグリフロジン服用群で増加する可能性が指摘されていたが、エンパグリフロジンではそのような傾向は見られていない。しかし、生殖器感染症はやはり大きく増加する事が示唆されている。

 Supplementary Appendixより、メトホルミン併用患者が70%以上であり、この事からも糖尿病治療の第一選択としてエンパグリフロジンを強く推奨するような論文ではないように思われる。 

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

カナグリフロジンで心血管イベントは減らせますか?

ご訪問ありがとうございます。

 

9/16(土)に、兵庫県養父市で開催された竹田城EBMワークショップに参加してきました。

 

最近は日程が合わなかったりで、student CASPなどのワークショップに参加できておらず、禁断症状が出ていたので、久しぶりのワークショップで楽しかったです(*'ω'*)

 

そこで今回は、お題論文となっていたCANVAS programについてまとめてみます。

 

参考文献 Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28605608

いつの間にか、フルテキスト見られなくなっているんですよね・・・。

 

PMID:28605608

 

研究デザイン:ランダム化比較試験(非劣性試験:非劣性マージン1.3)

CANVAS試験とCANVAS-R試験2つ研究の結果を統合している

 

☆最近は非劣性試験が増えてきている印象です。多くの疾患において標準治療が確立されてきているため、分野によるのでしょうが、最近ではプラセボ対照の比較試験が倫理的に許されなくなってきているようです。

 

論文のPECO

P:2型糖尿病で心血管イベントハイリスクの患者10142名

E:カナグリフロジン(100mg、300mg)

C:プラセボ

O:心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

 

CANVAS試験

→カナグリフロジン300mg、カナグリフロジン100mg、プラセボに1:1:1で割り付け。

CANVAS-R試験

→カナグリフロジン(初期用量100mg、その後必要に応じて300mgに増量)、プラセボに1:1で割り付け。

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている(computer-generated randomization)

 

一次アウトカムは明確か?

→複合アウトカムなので明確といえる

 

※複合アウトカムでは、含まれているアウトカムのうちどれか1つが発生した時点でその患者の追跡は打ち切りになるそうです。

(例)死亡、心筋梗塞脳卒中の複合アウトカムが設定されている場合、心筋梗塞を発症し、その後脳卒中を発症したとしても最初に発生した心筋梗塞のみイベントとしてカウントされる。そのため、実際に起こったイベント数よりは少なくカウントされることになる。

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→二重盲検されている(Randomization, Treatment, and Follow-upに、Participants and all trial staff were unaware of the individual treatment assignments until completion of the trial.と記載がある)

※しかし、HbA1cなどを確認するためブラインドが見破られている可能性がある

 

隠蔽化されているか?

→隠蔽化されている(Randomization was performed centrally through an interactive Web-based response system)中央割り付け

 

※今まで盲検化と隠蔽化の違いがあまりよく分かっていなかったので、ちょっと補足を。

隠蔽化(concealment:目の前の患者をこれから割り付けする時に、すでに割り付けられた別の患者がどちらの群に割り付けられたか、割り付けを行う者に分からないようにする(介入が始まる前)

盲検化(blind):研究を進めていく上で、追跡終了までどちらの群に割り付けられたか分からないようにする事(介入が始まった後)

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる(Table1参照)

※最近はTable1のベースラインについて、p値を記載しなくなっているらしいです。ベースラインで比較している項目がたくさんあるので、どれかしら有意差が出てしまう可能性があるし、その有意差を意識しすぎると振り回されてしまう事があるからという理由らしいです。なので、p値ではなく実際の数字をみて大きな偏りが無いか比較していくことが重要だそうです。

 

ITT解析を行われているか?

→ITT解析されている

※ITT解析を行うと差が出にくい傾向になります。非劣性試験では、ITT解析を使うと非劣性が示されやすくなる懸念があり、PPSで検討する必要があるのではないでしょうか?

 

サンプルサイズ

→688件のイベント(パワー90%、α=0.05)

ちなみにこれは、非劣性を示すためのサンプルサイズ

※サンプルサイズが多くなると有意差が出やすくなる。中心極限定理(例数が増えてくると、分布が中央に集まりやすくなる。そのため、95%信頼区間の幅が狭くなる。)が関係している。

参照↓

https://bellcurve.jp/statistics/course/8543.html

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→追跡率96%

 

追跡期間

→平均188.2週間(CANVAS:295.9週、CANVAS-R:108.0週)

 

結果

【ベースライン】

平均年齢:カナグリフロジン群:63.2±8.3歳 プラセボ群:63.4±8.2歳

糖尿病の罹患期間:カナグリフロジン群:13.5±7.7年 プラセボ群:13.7±7.8年

BMI:カナグリフロジン群:31.9±5.9 プラセボ群:32.0±6.0

HbA1c:カナグリフロジン群:8.2±0.9% プラセボ群:8.2±0.9%

 

【アウトカム】

(Primary)心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

カナグリフロジン群:26.9件/1000人年vs プラセボ群:31.5件/1000人年

HR=0.86(95%CI:0.75~0.97) 非劣性 p<0.001  優越性 p=0.02 

NNT=218/年

 

心血管死亡

カナグリフロジン群:11.6件/1000人年vs プラセボ群:12.8件/1000人年

HR=0.87(95%CI:0.72~1.06) 

 

非致死性心筋梗塞

カナグリフロジン群:9.7件/1000人年vs プラセボ群:11.6件/1000人年

HR=0.85(95%CI:0.69~1.05)

 

非致死性脳卒中

カナグリフロジン群:7.1件/1000人年vs プラセボ群:8.4件/1000人年

HR=0.90(95%CI:0.71~1.15)

 

【有害事象】

切断

カナグリフロジン群:6.3件/1000人年vs プラセボ群:3.4件/1000人年

HR=1.97(95%CI:1.41~2.75) p<0.001 NNH=345/年

 

全骨折

カナグリフロジン群:15.4件/1000人年vs プラセボ群:11.9件/1000人年

HR=1.26(95%CI:1.04~1.52) p=0.02 NNH=286/年

 

男性の性器感染

カナグリフロジン群:34.9件/1000人年vs プラセボ群:10.8件/1000人年

p<0.001 NNH=42/年

 

女性の真菌感染

カナグリフロジン群:68.8件/1000人年vs プラセボ群:17.5件/1000人年

p<0.001 NNH=20/年

 

感想

 カナグリフロジンで、心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムはHR=0.86(95%CI:0.75~0.97)ということで、95%信頼区間の上限(0.97)が非劣性マージンの1.3を下回っていることからプラセボに対する非劣性が示されている。95%信頼区間が1をまたいでいない事から、優越性についても示されている(p=0.02)。

 心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムとしては有意差が付いているものの、個々のアウトカム(心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)はいずれも有意差が付いていない。

 この研究はそもそも非劣性試験として設計されている点からも、結果の解釈には注意が必要かとは思われる。

 用量として、カナグリフロジン100mgを用いた患者と300mgを用いた患者、初期用量として100mg、その後300mgに増量した患者がいる。本来であれば、用量別の結果を示すべきだろうが、それをまとめてカナグリフロジン群とまとめている所も問題があるかと思われる。この研究は、CANVAS試験とCANVAS-R試験の結果を統合したものであるが、この2つの研究においては追跡期間も異なる点から、統合する事が妥当ではないように思われる。

 Figure1を見てみると、そもそもHbA1cは時間経過とともにカナグリフロジン群とプラセボ群の差が小さくなってきている。一方で、体重や収縮期血圧は時間経過を経ても、2群間の差が維持されている。もしかすると、Primary outcomeはHbA1cというよりは、これらの影響によるものなのかもしれない。

 あちこちで言われている切断リスクについてはHR=1.97(95%CI:1.41~2.75)、そのHHN=345/年であり、重大なイベントであることを考えると決して少なくないと感じた。男性の性器感染や女性の真菌感染も頻度が高いと思う。

 サブグループ解析を見てみると、βブロッカー服用患者や利尿薬を服用している患者でカナグリフロジン優位という結果になっている。

 骨折リスクなども懸念されるため、骨粗鬆症リスクのあるような高齢者へは避けた方が良さそうな気がするし、感染症リスクを高める可能性がある事も示されている。今回の結果を加味すると、使用を検討するような患者というのはかなり限定的なものになるのではないだろうか。

 糖尿病罹患期間は平均13.5年ほど、アテローム性血管疾患既往のある患者が70%以上と、比較的進行した糖尿病患者が対象となっており、少なくとも現時点では、このような患者にカナグリフロジンを積極的に用いるような根拠とはならないように思われる。

 

実はまだ、EMPA-REGもちゃんと読んでいないので読んでみます。

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.

リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378978

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

高齢者のHbA1cはどれぐらいにコントロールするのがいいですか?

ご訪問ありがとうございます。

 

ある本を読んでいて気になる論文を見つけたので、読んでみました。

 

参考文献 Glycosylated hemoglobin and functional decline in community-dwelling nursing home-eligible elderly adults with diabetes mellitus.

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22702660

 

PMID:22702660

 

研究デザインコホート研究

 

論文のPECO

P:施設入所が必要とされるような糖尿病患者367名

E:HbA1c<7.0、8.0<HbA1c<8.9%、9.0%<HbA1c

C:HbA1c7.0~7.9(reference)

O:機能低下、機能低下と2年以内の死亡

 

※機能低下→ベースラインからのADLの低下

 

ベースラインのADL:HbA1c測定前6か月以内で一番直近のADLスコア

フォロー後のADL:HbA1c測定後24±3カ月のADL

 

研究対象集団の代表性

→一般の地域在住の高齢者へ結果をそのまま適用は出来ないかもしれない。

※オンロック:要介護老人にデイセンターでサービスを提供しながら在宅生活の継続を保障するために始められたNPO(以下のリンク先より引用)

On Lokについて↓

https://mediva.co.jp/oishi-blog/2014/11/on-lokpace-program-center.html

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

調節した交絡因子は何か?マッチングされているか?

→年齢、性別、種族・民族、On Lok加入からの期間、ベースラインのADL、併存疾患(悪性腫瘍、虚血性心不全慢性閉塞性肺疾患、腎臓病、透析)、治療薬(無し、経口、インスリン)

 

追跡期間

→2年間

 

結果

【ベースライン】

平均年齢:80±9歳

 

治療薬

治療薬無し:48%、経口血糖降下薬(インスリン無し):32%、インスリン:50%

 

ADL

10~9点:34% 8~7点:23% 6~5点:25% ≦4点:19%

 

【アウトカム】

2年以内の死亡

HbA1c7.0~7.9:reference

HbA1c<7.0:調整リスク比=1.06(95%CI:0.92~1.21)

8.0<HbA1c<8.9%:調整リスク比=0.95(95%CI:0.80~1.13)

9.0%<HbA1c:調整リスク比=1.09(95%CI:0.91~1.29)

 

身体機能の低下

HbA1c7.0~7.9:reference

HbA1c<7.0:調整リスク比=1.07(95%CI:0.95~1.21)

8.0<HbA1c<8.9%:調整リスク比=0.90(95%CI:0.78~1.05)

9.0%<HbA1c:調整リスク比=0.98(95%CI:0.82~1.16)

 

身体機能の低下と2年以内の死亡

HbA1c7.0~7.9:reference

HbA1c<7.0:調整リスク比=1.07(95%CI:0.98~1.17)

8.0<HbA1c<8.9%:調整リスク比=0.88(95%CI:0.79~0.99)

9.0%<HbA1c:調整リスク比=0.97(95%CI:0.84~1.12)

 

 

感想

 今回の結果によると、高齢者のHbA1cは8.0~8.9の間を目指すのが最も機能低下や死亡が発生しにくいという事であった。

 対象集団は施設入所を要するような患者であるが、インスリンを50%の患者で導入されている。On Lokではどの程度治療のサポートがあるのか不明だが、結構手厚くサポートを受けているのかもしれない。

 もしかすると、アドヒアランスなどは一般的な地域在住の高齢者と相違があるかもしれない。なので、そのままこの結果を一般家庭の高齢者へ適用する事は出来ないのかもしれない。少なくとも80歳を超えるような高齢者において、HbA1c<7.0のような比較的厳しい血糖コントロールをしなくてもいいのではないかと思う。

 このような高齢者の、HbA1cの違いによる転倒・骨折リスクについても気になる所ではある。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

血糖値をしっかりコントロールしたら10年後はどうですか?(UKPDS80)

ご訪問ありがとうございます。

 

今回は糖尿病の有名な論文である、UKPDS80を読んでみました。

 

参考文献  10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.

リンク   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=18784090

 

PMID:18784090

 

研究デザイン:ランダム化比較試験

 

論文のPECO

P:25~65歳で食後血漿グルコース108~270mg/dLの新規に2型糖尿病と診断された患者のうちUKPDSに参加した者

E:標準治療(食事制限)の治療終了10年後

C:厳格治療(SU薬、インスリン、標準体重の120%以上の患者ではメトホルミン)の治療終了10年後

O:7項目

①糖尿病関連エンドポイント(突然死、高血糖または低血糖による死亡、致死性・非致死性心筋梗塞狭心症心不全、致死性・非致死性脳卒中、腎不全、切断、硝子体出血、網膜光凝固術、片目失明、白内障摘出術)

②糖尿病関連死亡(突然死、心筋梗塞脳卒中・末梢血管疾患・腎疾患・高血糖低血糖による死亡)

③総死亡

心筋梗塞(突然死、致死性・非致死性心筋梗塞

脳卒中(致死性・非致死性脳卒中

⑥末梢血管疾患(指の切断、末梢血管疾患による死亡)

⑦微小血管疾患(硝子体出血、網膜光凝固術、腎不全)

 

※UKPDS研究終了後、3277名が5年間は1年に1回UKPDSの病院を受診するように指示された。ただし、UKPDSで割りつけられた治療は維持されなかった。6~10年間は年1回の質問票に回答してもらった。

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている

 

一次アウトカムは明確か?

→アウトカムとして7つ挙げられており、多く設定されているためどれか偶然に有意差が出てしまうのではないかという懸念はある。やや注意が必要かもしれない。

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→盲検化は不可能かと思われる。PROBE法?

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる

 

ITT解析を行われているか?

→ITT解析されている

 

サンプルサイズ

→記載なし

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→Figure1の文章の下から1行目にOverall, 3.5% of patients were lost to follow-upの記載があるため、追跡率は96.5%

 

追跡期間

→インスリン、SU薬群:8.5年 メトホルミン群:8.8年

 

結果

【ベースライン】

平均年齢

SU薬 標準治療:63±9歳 厳格治療:63±9歳

メトホルミン 標準治療:63±9歳 厳格治療:64±9歳

※理想体重の120%以上の患者はメトホルミン服用

 

HbA1c

SU薬 標準治療:8.5% 厳格治療:7.9%

メトホルミン 標準治療:8.9% 厳格治療:8.4%

 

BMI

SU薬 標準治療:28.7±5.6 厳格治療:29.3±5.5

メトホルミン 標準治療:32.2±5.7 厳格治療:31.7±5.4

 

※追跡開始1年後ぐらいで厳格治療群と標準治療群のHbA1cの値は同等になっている。(Figure2より)

 

【アウトカム】

①糖尿病関連エンドポイント

・インスリン/SU:48.1/1000人年 vs  標準治療群:52.2/1000人年

リスク比=0.91(95%CI:0.83~0.99)  p=0.04

・メトホルミン:45.7/1000人年 vs 標準治療群:53.9/1000人年

リスク比=0.79(95%CI:0.66~0.95)  p=0.01

 

②糖尿病関連死亡

・インスリン/SU:14.5/1000人年 vs  標準治療群:17.0/1000人年

リスク比=0.83(95%CI:0.73~0.96) p=0.01

・メトホルミン:14.0/1000人年 vs 標準治療群:18.7/1000人年

リスク比=0.70(95%CI:0.53~0.92) p=0.01

 

③総死亡

・インスリン/SU:26.8/1000人年 vs  標準治療群:30.3/1000人年

リスク比=0.87(95%CI:0.79~0.96) p=0.007

・メトホルミン:25.9/1000人年 vs 標準治療群:33.1/1000人年

リスク比=0.73(95%CI:0.59~0.89) p=0.002

 

心筋梗塞

・インスリン/SU:16.8/1000人年 vs  標準治療群:19.6/1000人年

リスク比=0.85(95%CI:0.74~0.97) p=0.01

・メトホルミン:14.8/1000人年 vs 標準治療群:21.1/1000人年

リスク比=0.67(95%CI:0.51~0.89) p=0.005

 

脳卒中

・インスリン/SU:6.3/1000人年 vs  標準治療群:6.9/1000人年

リスク比=0.91(95%CI:0.73~1.13) p=0.39

・メトホルミン:6.0/1000人年 vs 標準治療群:6.8/1000人年

リスク比=0.80(95%CI:0.50~1.27) p=0.35

 

⑥末梢血管疾患

・インスリン/SU:2.0/1000人年 vs  標準治療群:2.4/1000人年

リスク比=0.82(95%CI:0.56~1.19) p=0.29

・メトホルミン:2.3/1000人年 vs 標準治療群:3.4/1000人年

リスク比=0.63(95%CI:0.32~1.27) p=0.19

 

⑦微小血管疾患

・インスリン/SU:11.0/1000人年 vs  標準治療群:14.2/1000人年

リスク比=0.76(95%CI:0.64~0.89) p=0.001

・メトホルミン:12.4/1000人年 vs 標準治療群:13.4/1000人年

リスク比=0.84(95%CI:0.60~1.17) p=0.31

 

感想

 もとのUKPDS(33,34)終了後、追跡期間1年ほどで厳格治療群と標準治療群のHbA1cの値は同等になっている。それにも関わらず糖尿病関連死亡や総死亡、心筋梗塞は有意に厳格治療群で少ないという結果。また、脳卒中や末梢血管疾患は有意差こそ出ていないが減少傾向がみられる。

 この結果から、糖尿病は初期段階の治療が割と重要なのかなという印象である。逆に言うと、初期の治療をしっかりやれば、その後はそこまで厳格な治療でなくてもいいということなのだろうか。

 個人的には、DPP-4阻害薬を用いて初期治療を行った場合の結果というのも気になる所である。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

メトホルミンと組み合わせるならDPP-4阻害薬とSU薬どちらがいいですか?その2

ご訪問ありがとうございます。

 

前回の続きで、メトホルミンと併用するならDPP-4阻害薬とSU薬のどちらが良いか検討した論文を見つけたので読んでみました。

 

とはいえ、またしてもアブストラクトしか読めません(´・ω・`)

 

参考文献 Combination therapy with metformin plus sulphonylureas versus metformin plus DPP-4 inhibitors: association with major adverse cardiovascular events and all-cause mortality.

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24762119

 

PMID:24762119

 

研究デザインコホート研究

 

論文のPECO

P:2型糖尿病患者

E:SU薬+メトホルミン→33983名

C:DPP-4阻害薬+メトホルミン→7864名

O:①MACE(心筋梗塞脳卒中) ②総死亡

 

研究対象集団の代表性

→問題無し

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

一次アウトカムは明確か?

→明確

 

調節した交絡因子は何か?

→傾向スコアマッチされている

 

追跡期間

→不明

 

結果

MACE

SU薬:11.3/1000人年 vs DPP-4阻害薬:5.3/1000人年

傾向スコアマッチ後のHR=1.547(95%CI:1.076~2.225)

 

総死亡

SU薬:16.9/1000人年 vs DPP-4阻害薬:7.3/1000人年

傾向スコアマッチ後のHR=1.497(95%CI:1.092~2.052)

 

感想

 前回のものと同様に、メトホルミンと併用するならSU薬よりもDPP-4阻害薬の方が良さそうな結果。DPP-4阻害薬が心血管イベントを減らしているのか、SU薬が心血管イベントに悪影響を及ぼしているのかどうなのかよく分からないが・・・。

 今度はメトホルミンやSU薬についても追及していこうと思う。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

メトホルミンと組み合わせるならDPP-4阻害薬とSU薬どちらがいいですか?

ご訪問ありがとうございます。

 

もう1本、アブストしか読めないが気になる論文を見つけたので読んでみました。

 

参考文献  The combination of DPP-4 inhibitors versus sulfonylureas with metformin after failure of first-line treatment in the risk for major cardiovascular events and death.

リンク   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25840943

 

PMID:25840943

 

研究デザインコホート研究

 

論文のPECO

P:メトホルミンまたはSU薬の単独治療を受けている患者11807名

E:DPP-4阻害薬+メトホルミン→2286名

C:SU薬+メトホルミン→9521名

O:心筋梗塞脳卒中、総死亡の複合アウトカム

 

研究対象集団の代表性

→UKの診療調査データベースが用いられており問題は無さそう

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

アウトカムは明確か?

→複合アウトカムなので明確

 

調節した交絡因子は何か?

→傾向スコアマッチをされている

 

結果

心筋梗塞脳卒中、総死亡の複合アウトカム

DPP-4阻害薬+メトホルミン群 1.2%(0.8%~1.7%)/年

SU薬+メトホルミン群 2.2%(1.9%~2.5%)/年

調整HR=0.62(95%CI:0.40~0.98)

 

 

感想

 アブストしか読めないため、平均追跡期間など詳細は不明だが、メトホルミンと併用するならSU薬よりDPP-4阻害薬の方が優れているという結果。

 患者背景や追跡期間などが分からず、しかもコホート研究であるため、この論文だけでDPP-4阻害薬の方が優れていると結論づけるのは気が早いように思う。また、DPP-4阻害薬は患者負担も高いため、その価格に見合った恩恵が受けられるのかというところもある。  

 関連する論文もあると思うので、また見つけて読んでみようと思う。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。

 

CKD併存2型糖尿病患者への急性心筋梗塞後のシタグリプチン

ご訪問ありがとうございます。

 

今回はアブストしか読めないものの、気になる論文を見つけたので読んでみました。

 

参考文献  Sitagliptin and cardiovascular outcomes in diabetic patients with chronic kidney disease and acute myocardial infarction: A nationwide cohort study.

リンク   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25528312

 

PMID:25528312

 

研究デザインコホート研究

 

論文のPECO

P:CKDのある急性心筋梗塞後の2型糖尿病患者1025名

E:シタグリプチン服用あり→205名

C:シタグリプチン服用無し→820名

O:心筋梗塞、虚血性脳梗塞、心血管死の複合アウトカム

 

研究対象集団の代表性

→台湾の国民健康保険データベースが用いられており、大きな問題無し

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

アウトカムは明確か?

→明確

 

調節した交絡因子は何か?

→詳細不明

 

追跡期間

→平均1.02年

 

結果

心筋梗塞、虚血性脳梗塞、心血管死の複合アウトカム(Primary outcome

E群:54/205件(26.3%)vs C群:164/820件(20.0%)

HR=1.32(95%CI:0.97~1.79) p=0.079

 

※虚血性脳卒中(p=0.938)、総死亡(p=0.523)、心不全による入院(p=0.795)も有意差無し

 

心筋梗塞の再発  

HR=1.73(95%CI:1.15~2.58) p=0.008

 

経皮的冠動脈血行再建術  

HR=1.43(95%CI:1.04~1.95) p=0.026

 

感想

 アブストのみで、交絡などの詳細は分からない。Primary outcomeは有意差こそ出ていないが、リスク増加傾向であるところは軽視すべきではないかと思う。今回の研究は平均追跡期間が1年程度と短いので、さらに追跡期間を延ばすと差は大きくなるかもしれない。

 また、心筋梗塞の再発リスクを高めるという結果からも、慢性腎臓病患者に対してシタグリプチンは慎重に用いた方が良さそうである。 

 シタグリプチンは主な代謝経路が腎臓なので、この事の影響もあるのかもしれない。もしかすると、腎排泄の割合が低めのテネリグリプチンや、胆汁排泄型のリナグリプチンでは異なった結果になるのかもしれないが、今後調べてみようと思う。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。