クレメジンを服用すると透析導入を遅らせることが出来ますか?
第5弾。今回は、クレメジン(AST-120)についてです。
クレメジンと聞くと、ジャリジャリして飲みにくく、コンプライアンスも悪くなりがちな薬の代表格なイメージを持たれる方も多いのではないでしょうか?
自分もサンプルを飲んでみたことがありますが、歯に詰まるし、ずっと口の中に残っているような感じがして、これを1日3回はキツイな!という印象でした。
カプセルにしても、1回10カプセルになるので相当大変です。
田辺三菱製薬のサイトには、クレメジン細粒の飲み方の工夫が載っているので参考までに
https://medical.mt-pharma.co.jp/intro/krm/effect.shtml
そんなクレメジンですが、果たしてそんな大変な思いをしてまでキッチリ飲まないといけないんでしょうか?と思い、論文を検索してみました。
先ず、1つ目の論文は
Effect of an Oral Adsorbent, AST-120, on Dialysis Initiation and Survival in Patients with Chronic Kidney Disease
リンクhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3263620/
研究デザイン:後ろ向き研究
論文のPECO
P:CKD患者560名
E:透析導入までAST-120を服用(AST群)
C:AST-120服用無し(non-AST群)
O:(Primary)累積の透析導入に至っていない患者割合
(Secondary)3,5,10年生存率
※除外基準
記載なし
サンプルサイズ
記載なし
一次アウトカムは明確か?
Primary outcomeとして、透析に至っていない患者割合なので、アウトカムは明確
真のアウトカムか?
透析導入は、患者の日常生活に与える影響が大きいので、真のアウトカムと言える。
傾向スコアマッチングされているか?
Patients and MethodsのPair-Matching Methodsの冒頭にTo guarantee the validity of this retrospective analysis, a propensity score was applied to pairmatched patients.
の記載があるので、傾向スコアマッチングされている。
調整された交絡因子は何か?
年齢、性別、血圧、生化学検査、併用薬(活性ビタミンD、ACE阻害剤、ARB、Ca拮抗薬、)、eGFR、糖尿病、心血管疾患(心不全、心筋梗塞、狭心症)
追跡期間
Primary endpoint:24カ月
Secondary endpoint:10年
※ベースラインの時点は、AST-120群ではAST-120服用開始時点。一方、non-AST-120群では、マッチングされたペア(AST-120群)のベースラインのeGFRの数値と最も近いeGFRが確認された時点。
結果
(Primary endpoint)
透析導入に至っていない患者の割合
|
12カ月 |
24カ月 |
p値 |
AST-120群 |
25% |
10.5% |
P<0.001 |
Non-AST-120群 |
13.7% |
5.7% |
(Secondary endpoint)
生存率
|
3年 |
5年 |
10年 |
p値 |
AST-120群 |
79% |
63.8% |
29.8% |
P=0.0664 |
Non-AST-120群 |
78.1% |
65.6% |
44.0% |
(サブグループ解析)
透析導入に至っていない患者の割合
|
12カ月 |
24カ月 |
p値 |
AST-120 |
25.0 |
13.7 |
p<0.0001 |
Non-AST-120 |
10.5 |
5.7 |
|
AST-120、DM(-) |
30.1 |
17.6 |
p<0.0001 |
Non-AST-120、DM(-) |
11.2 |
8.2 |
|
AST-120、DM(+) |
20.8 |
10.0 |
p=0.0057 |
Non-AST-120、DM(+) |
10.8 |
3.6 |
|
AST-120、CVD(-) |
24.2 |
22.6 |
p=0.0063 |
Non-AST-120、CVD(-) |
11.2 |
8.4 |
|
AST-120、CVD(+) |
27.2 |
12.8 |
p<0.0001 |
Non-AST-120、CVD(+) |
9.8 |
2.9 |
DM:糖尿病、CVD:心血管疾患
感想
AST-120を服用していた患者では、12カ月、24カ月時点における透析導入に至っていない患者割合が有意に高いという結果になっている。透析に至ってしまうと、患者の日常生活に大きな影響が出ることが考えられるので、透析導入までの期間を延ばす事は、QOL維持に重要と思われる。しかし、クレメジン細粒はジャリジャリして、歯に詰まるなどして、飲みにくい事、クレメジンカプセルにしても、1回10Capを1日3回なので、飲みにくい点が逆にQOL低下をきたす可能性もある。
今回の研究では、non-AST-120群のベースラインの時点の設定が妥当なのか疑わしく感じた。なので、結果は少し割り引いて考えるべきではないだろうか。この研究の結果だけから考えると、透析導入までの期間を少なからず延ばすことが出来るかもしれない。但し、Secondary outcomeではあるが、延命はあまり期待できないかもしれないが、10年生存率は、ややAST-120群で高い傾向にある?超高齢者では、服用しなくてもいいかもしれない。
クレメジンは、患者のコンプライアンスが悪くなりがちだと思うので、服薬コンプライアンス毎の効果の比較もあればと思う。きっちり、1日3回コンプライアンス良く飲むべきなのだろうか?
他の論文も探してみたところ、EPPIC trialという研究があるらしく、この論文を読んでみました。
Randomized Placebo-Controlled EPPIC Trials of AST-120 in CKD.
リンクhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=25349205
ランダム化されているか?
タイトルにズバリRandomizedの記載があるのでランダム化
研究デザイン:多国籍、ランダム化、二重盲検、プラセボ比較
EPPIC-1とEPPIC-2の2つのトライアル(EPPIC-2にはQOL:KDQOL-36の評価も含まれる)
論文のPECO
P:(血清クレアチニン値 男性:2.0~5.0mg/dl 女性:1.5~5.0mg/dlの)中等度~重度の成人CKD患者2035名
E:標準治療に追加でAST-120(球形吸着炭)9g/日を服用
C:標準治療に追加でプラセボを服用
O:(Primary)透析開始、腎移植、血清クレアチニン値の倍増の複合エンドポイント
(Secondary)Primary endpoint(3つ)+死亡の4つの複合エンドポイント
※血清クレアチニン:筋肉で作られる老廃物の一つで、ほとんどが腎臓の糸球体から排泄される。血液中のクレアチニンの増加は、糸球体の濾過機能が低下していることを意味します。筋肉量が多い男性では、女性より高くなりやすい。
(基準値)男性:1.1mg/dl未満 女性:0.8mg/dl未満
※除外基準
コントロール不良の高血圧、閉塞性または可逆性腎障害、ネフローゼ症候群、多発性嚢胞腎、コントロール不良の不整脈、重篤な心血管疾患(NYHA分類Ⅲ、Ⅳ度)、免疫抑制療法、腎移植、吸収不良、炎症性大腸炎、裂肛ヘルニアの既往、活動性消化性潰瘍、重度の消化管運動障害
サンプルサイズ
30%の脱落があると想定。プラセボと比較し、AST-120でプライマリーアウトカム発生率28%減少を、α=0.05、80%のパワーを持って検出するのに980名(各群490名)が必要と計算。
一次アウトカムは明確か?
Primary outcomeとして、透析開始、腎移植、血清クレアチニンの倍増の3つの複合アウトカムになっている。発生は誰が見ても明らかなものなので、アウトカムは明確と言える。
真のアウトカムか?
真のアウトカムと言える。血清クレアチニンは代用。
妄検化されているか?
Study Designの1行目にEPPIC-1 and EPPIC-2 were randomized, double-blind, placebo-controlled…
二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
Table3の下の説明に、the primary analysis was conducted on the ITT (censored at last contact) population
の記載があるので、ITT解析されている
脱落率は結果を覆すほどあるか?
EPPIC-1 (105+94)/1020=19.5%
EPPIC-2 (104+110)/1015=21.1%
脱落率はやや大きめだが、追跡率としてはまずまずだろうか。
追跡期間
EPPIC-1、EPPIC-2ともに、291例のPrimary endpoint発生まで継続
EPPIC-1 AST-120群:102.1週間 Placebo群:96.3週間
EPPIC-2 AST-120群:103.3週間 Placebo群:91.6週間
結果
(Primary endpoint)
透析開始、腎移植、血清クレアチニン値の倍増の複合エンドポイント
EPPIC-1
|
発生率 |
HR(95%CI) |
p値 |
AST-120群 |
35.6%(178/500) |
1.03(0.84-1.27)
|
p=0.78 |
プラセボ群 |
35.3%(177/502) |
EPPIC-2
|
発生率 |
HR(95%CI) |
p値 |
AST-120群 |
34.4%(172/500) |
0.91(0.74-1.12)
|
p=0.37 |
プラセボ群 |
36.8%(183/497) |
EPPIC-1とEPPIC-2の統合分析
|
発生率 |
HR(95%CI) |
p値 |
AST-120群 |
35.0%(350/1000) |
0.97(0.83-1.12)
|
p=0.64 |
プラセボ群 |
36.0%(360/999) |
(Secondary endpoint)
Primary endpoint+死亡
EPPIC-1
|
発生率 |
HR(95%CI) |
p値 |
AST-120群 |
42.6%(213/500) |
1.08(0.89-1.31)
|
p=0.42 |
プラセボ群 |
40.0%(201/502) |
EPPIC-2
|
発生率 |
HR(95%CI) |
p値 |
AST-120群 |
40.8%(204/500) |
0.90(0.74-1.09)
|
p=0.28 |
プラセボ群 |
43.7%(217/497) |
有害事象
|
AST-120 |
|
EPPIC-1 |
20.7%(105/500) |
18.5%(94/502) |
EPPIC-2 |
20.5%(104/500) |
21.8%(110/497) |
※両群とも、有害事象としては便秘、吐き気、下痢などの消化器症状が多い
※EPPIC-2のみで評価された、KDQOL-36はAST-120群、Placebo群で有意差なし
感想
複合エンドポイントとしては、EPPIC-1、EPPIC-2いずれの試験でも、HRに大きな差もなく、有意差も出ていない。今回試験で用いられている球形吸着炭の用量は9g/日であるが、国内の用法用量は6g/日である。この結果だけから言うと、あまり服用することで効果は期待できそうではない。生存期間の延長は期待出来なさそうである。クレメジンを毎日3回服用すること自体がQOLを低下させる可能性もある。特に、高齢で余命があまり長くないと考えられる患者では、服用しないという判断もありなのではないだろうか。複合エンドポイントのうち、透析導入だけに関して見てみると、EPPIC-2では、p=0.08とギリギリ有意差が出ていないような結果である。もしかすると、透析導入までの期間は延長出来る可能性があるかもしれない。透析は、時間的拘束もあり、医療費の面から見ても負担が大きいことが考えられる。若年患者であれば、服用することで透析導入までの期間が延長出来る可能性を期待して服用することもありかもしれない。
今回は、論文2つ読んでみましたが、これだけでは服用することでどうなのか判断し難いので、他にも同様の論文検索してみます。
上記2つの論文の結果をまとめてみると、クレメジン服用で、多少は透析導入までの期間を延長出来る可能性はあるのかな?といった印象。これまで、その効果を正直疑っていたが、確かに服用する意味もあるのかなといった感想を持った。クレメジンに関しては、効果の面からも、飲みにくさの点からも店舗や社内、また様々な医療関係の方々と議論してみたい薬だなと思った。患者さんの背景によっても判断が大きく違ってきそうである。また、飲みにくいお薬なので、服薬指導でも「出来るだけしっかり飲んでもらう」という選択肢と、「飲みにくければ飲める時だけでもいい」という選択肢とどうかな?と思う。新入社員も巻き込んで議論したいかな。
今回は長かったですが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。