スボレキサントは睡眠をどれぐらい改善しますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、前から気になっていたスボレキサント(商品名:ベルソムラ)に関してです。
先ず、スボレキサントについて簡単にまとめてみます。
スボレキサントは、オレキシン受容体拮抗薬に分類されます。
オレキシンは、脳の覚醒に関与しており、脳内オレキシン濃度高くなると脳が覚醒することになります。「ナルコレプシーの患者さんで少なくなっている物質」としてお馴染みの方もいらっしゃるかもしれません。
そこで、オレキシン受容体をオレキシンと拮抗することにより、脳を睡眠の状態にしてあげるというのが、スボレキサントの作用となります。
比較的新しく発売され、僕の勤めている薬局でもちらほら処方が出ているお薬ですが、果たしてその効果はいかに?
参考文献 Suvorexant for Primary Insomnia: A Systematic Review and Meta-Analysis of
Randomized Placebo-Controlled Trials
リンク http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4552781/pdf/pone.0136910.pdf
研究デザイン:メタ分析(二重盲検のRCTが対象)
論文のPECO
P:平均年齢56.6歳の原発性不眠症患者3076名(男性38.2%、白人77.0%)
E:スボレキサント
C:プラセボ
O:(Primary)1か月後の主観的総睡眠時間(sTST)、主観的睡眠潜時(sTSO)
(Secondary)1週間・3か月後のsTSTとsTSO、主観的中途覚醒時間(sWASO)、主観的睡眠の質(sQUAL)、1週間・1か月・3カ月後における主観的中途覚醒回数(sNAW)、持続睡眠潜時(LPS)、主観的目覚めの爽快感(sFRESH)、1か月後・3か月後のISIスコア、2週間後・1か月後・3か月後の医師の重症度の印象(CGI-S)、患者の重症度の印象(PGI-S)、医師の改善度の印象(PGI-I)、患者の改善度の印象(PGI-I)、3か月後の応答率(ISIスコアがベースラインから6ポイント以上改善すれば応答とみなす)、中断率、個々の有害事象
一次アウトカムは明確か?
Primary outcomeとして、1か月後の主観的総睡眠時間(sTST)、主観的睡眠潜時(sTSO)の2つが設定。Primary outcomeが2つ設定されているし、主観的な評価項目なので注意が必要。
真のアウトカムか?
真のアウトカム
4つのバイアス
1、評価者バイアス
Methodsに、Two authors (T.K. and S.M.) independently extracted・・・(2名の評価者が独立してデータ抽出)
評価者バイアス問題なし
2、出版バイアス
情報元: PubMed、コクラン、PsycINFO
Methodsにsearched without language restriction(言語制限なしに検索)の記載あり。データ不足時は、追加データももらえるよう著者に問い合わせもしている。
出版バイアス問題無し
3、元論文バイアス
Resultsに、All studies were of high methodological quality according to the Cochrane
Risk of Bias Criteria, since・・・
元論文のRisk of Biasの評価も行われており、すべて質の高い研究
元論文バイアス問題無し
4、異質性バイアス
Primary outcomeのフォレストプロットを見ると、I2=0%のものばかりなので、異質性は低い。組み入れられた研究が少ないので、異質性が低いのかもしれない。
異質性バイアス無し
結果
Primary outcome
主観的総睡眠時間(sTST)
スボレキサント群:およそ40分の改善 プラセボ群:およそ20分の改善
スボレキサント群とプラセボ群の間におよそ20分の総睡眠時間の差
主観的睡眠潜時(sTSO)
スボレキサント群:およそ17~21分の改善 プラセボ群:およそ10~14分の改善
スボレキサント群とプラセボ群の間におよそ7.6分の睡眠潜時の差
Secondary outcome
・有効性
1週間後のsQUAL、3か月後のsWASO・LPS、全期間のsNAW以外は有意な改善
・有害事象
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RR(95%CI) |
NNT(95%CI) |
少なくとも1つの副作用 |
1.58(1.35-1.85)p<0.00001 |
10(7-20) |
重篤な有害事象 |
0.49(0.14-1.66) |
|
眠気 |
3.16(2.18-4.57)p<0.00001 |
14(10-25) |
昼間の過度の睡眠、鎮静状態 |
3.34(1.08-10.32) |
100(100-∞) |
疲労感 |
2.09(1.08-4.06) |
50(25-∞) |
金縛り |
2.74(0.47-16.0) |
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入眠時幻覚 |
2.31(0.38^13.95) |
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覚醒時幻覚 |
1.65(0.17-15.86) |
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異常な夢 |
2.87(1.10-7.52)p=0.03 |
100(50-∞) |
1.72(0.24-12.13) |
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転倒 |
0.84(0.44-1.62) |
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頭痛 |
1.13(0.85-1.51) |
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めまい |
0.87(0.57-1.31) |
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背部痛 |
0.52(0.28-0.98)p=0.04 |
有意差無し |
口腔乾燥 |
1.99(1.10-3.61)p=0.02 |
有意差無し |
鼻咽頭炎 |
0.95(0.71-1.28) |
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感想
メタアナリシスとはなっているが、組み入れられた研究の数が少ないところが難点である。組み入れられた研究が少ないこともあって異質性は小さくなっている。
やはり、睡眠という事でプラセボ効果も大きいように感じられる。Secondary outcomeではあるが、1週間後のsTSTでも、プラセボ群と比較して約20分程度の改善が見られているので、効果発現という面では比較的早期から現れてくるものと思われる。
研究には、開発元のメルク社が関与しているようなので、やや結果は割り引いて考える必要はありそうである。プラセボとの比較では総睡眠時間を20分程度改善ということで、あまり差は大きくなさそうに感じられるが、実際使用する場合はプラセボ効果に+αの効果として現れるので、使ってみる価値はあるのかな?という印象。ベンゾジアゼピン系や、非ベンゾジアゼピン系(いわゆるZ-drug)に関する論文をまだ読めていないので何とも言えないが、案外有害事象も少ない方なのかな?と感じた。
このメタ分析では、ベースラインの総睡眠時間や睡眠潜時がどれくらいの患者が対象なのか分からず、使用した場合の効果がどの程度重要なのか判断しにくい。元論文にも目を通さなければならない。
効果に関しては、プラセボ群ではなく、無治療群との比較というのも気になる所である。
そして、スボレキサントに関して、もう1つ注意すべきことが併用薬です。
以下、ベルソムラ錠の添付文書より引用。
クラリスロマイシンなどとの併用が禁忌となっています。他院を受診されている患者さんでは、風邪などに対してクラリスロマイシンが処方される可能性が十分に考えられるので注意が必要となります。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。