胃酸分泌抑制薬の使用で骨折リスクは増えますか?
ご訪問ありがとうございます。
先日、在宅の往診同行時に、往診Drから「PPIなんかずっと飲んでても何も悪いことは無いよね」って言われ、内心、「いやいや、そんなことはないやろ~」と思いながらも、具体的な情報を持っていなかったため、苦笑いするしかなかった・・・という経験をしました。
ちょっと悔しかったので、まずはPPIと骨折リスクに関する論文を探してみました。
参考文献 Use of Acid-Suppressive Drugs and Risk of Fracture: A Meta-analysis of Observational Studies
リンク http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3090435/pdf/0090257.pdf
研究デザイン:メタ分析(ケースコントロール、ネステッドケースコントロール、コホート)
※ネステッドケースコントロール研究・・・前向きコホート研究の参加者の中から, 追跡期間内に特定の疾病にかかった者全員を症例として選び,それ以外の参加者の一部から対照を選び,症例対照研究としての分析を行う。疾患発生時点と追跡の長さまでマッチされる。
論文のPECO
P:一般人口?(Pがうまく立てられませんでした・・・。)
O:骨折
一次アウトカムは明確か?
一次アウトカムは骨折なので明確
真のアウトカムか?
いずれも患者の予後に大きな影響を及ぼしうるため、真のアウトカム
4つのバイアス
1、評価者バイアス
METHODSのData Extraction and Quality AssessmentにTwo investigators (C-S.E. and S.M.P.) independently extracted data・・・
評価者バイアスはさほど問題なさそう
2、出版バイアス
情報元:MEDLINE(PubMed)、EMBASE、コクラン
METHODSのLiterature SearchにWe did not limit the search through use of any restrictions.
検索に何も制限を設けなかった
Publication BiasにWe found no statistically significant asymmetry in funnel plots
出版バイアスはさほど問題なさそう
3、元論文バイアス
Newcastle-Ottawa Scale (NOS):ニューキャッスル・オタワ・スケールを用いて研究の質を評価している
元論文バイアスもさほど問題なさそう
4、異質性バイアス
Figure2のPPI服用群ではI2=69.8%、H2ブロッカー服用群ではI2=86.3。共に異質性は高い。特に、H2ブロッカー服用群は極めて高い。
結果
Main Analysis
PPI服用群
調整OR=1.29 (95%CI:1.18~1.41) I2=69.8%
H2ブロッカー服用群
調整OR=1.10 (95%CI:0.99~1.23) I2=86.3%
Subgroup Meta-Analyses
PPI服用群
(股関節骨折)調整OR=1.31 (95%CI:1.11~1.54) I2=88.4%
(脊椎骨折)調整OR=1.56 (95%CI:1.31~1.85) I2=6.3%
(その他の骨折)調整OR=1.15 (95%CI:0.94~1.42) I2=78.2%
H2ブロッカー服用群
(股関節骨折)調整OR=1.11 (95%CI:0.95~1.29) I2=81.2%
(その他の骨折)調整OR=1.01(95%CI:0.93~1.11) I2=0%
感想
日頃、現場でもPPIやH2ブロッカーが長期漫然と処方されている症例は良く見かける。本当に必要な処方なのか疑問に思う事も多い。
本研究は、症例対象研究、コホート研究を統合したメタ分析であり、異質性がPPI服用群、H2ブロッカー服用群共に高くなっている。いずれにせよ骨折の発生と胃酸分泌抑制薬の服用の間には関連性がありそうである。H2ブロッカーでは、有意差は出ていないようだが、95%CIは0.99~1.23となっており少し条件が変わると有意差も出そうである。有意差だけが全てではないし、骨折という有害事象を検討しているので、やや骨折発生と関連がありそうであるという、この結果は軽視せず追及すべきだと思う。特に高齢者では、骨折が寝たきりにつながる可能性があるので注意が必要である。
レバミピド等、胃粘膜保護薬と骨折リスクも気になる所である。骨折リスクだけで全ての判断がなされるわけでもないし、〝骨折リスクが高まる可能性がある→胃酸分泌抑制薬は飲まない方がいい”というわけではないし、必要な場合もあるだろうが、漫然と投与すべきではないというエビデンスのひとかけら位にはなるかもしれない。この点は日頃から念頭に置いておくべきだろう。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。