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高齢者への低用量アスピリン投与で心血管イベントは防げますか?

ご訪問ありがとうございます。

 

今回は、先日のJJCLIPで取り上げられていたJPPPを読んでみました。

 

高血圧、脂質異常症、糖尿病の60歳以上の高齢者に対して低用量(100mg/day)のアスピリンを追加するのとしないのとで、心血管イベントが防ぐことが出来るか検討しています。

 

抗血小板薬であるアスピリンを服用すると、理論上COX-1が阻害されます。その結果、凝固に関与するTXA2生成が低下し、血栓生成が抑えられることになります。

 

理論上、心筋梗塞脳卒中が抑えられるといった予測が立てられます。

 

さて、実際どうなんでしょうか?

 

 参考文献 Low-dose aspirin for primary prevention of cardiovascular events in Japanese patients 60 years or older with atherosclerotic risk factors: a randomized clinical trial.

 

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25401325

 

PMID:25401325

 

研究デザイン:多施設共同ランダム化比較試験、オープンラベル(PROBE法)

 

ランダム化されているか?

→されている

 

論文のPECO

P:60歳以上85歳未満で、高血圧、脂質異常症、糖尿病の診断を受けており動脈硬化の診断を受けた事のない日本人14464名

E:通常治療+アスピリン100mg/day

C:通常治療のみ

O:(Primary)心血管因性死亡(心筋梗塞脳卒中、その他心血管性の原因による)、非致死性脳卒中(虚血、出血、定義されていない脳血管イベント)、非致死性心筋梗塞の複合アウトカム

 (Secondary)Primary outcome+TIA狭心症、手術や介入の必要な動脈硬化の複合アウトカム、心血管因性死亡、非心血管因性死亡、非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞TIA狭心症、手術や介入の必要な動脈硬化、輸血や入院を必要とする重篤な頭蓋外出血

 

 

除外基準

冠動脈疾患の既往歴、脳血管疾患、手術や介入の必要な動脈硬化、心房細動、消化性潰瘍、出血に関連する状態(vonWillebrand病など)、重篤な血液の異常(凝固因子欠乏症など)、アスピリン喘息、アスピリンサリチル酸過敏症、抗血小板薬や抗凝固薬の服用、長期間のNSAID服用

 

サンプルサイズ

14960名(パワー80% α=5%)

 

一次アウトカムは明確か?

→明確

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→PROBE法が用いられている

 

ITT解析を行われているか?

→modified ITT解析が用いられている

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

追跡率=98.7%

 

追跡期間

→6.5年(実際はある期間までで両群の差が出なかったため、平均5.02年で早期打ち切りになった)

 

結果

Primary outcome

心血管性死亡、非致死性脳卒中、非致死性心筋梗塞の複合アウトカム

E群:193/7220名 C群:207/7244名

HR=0.94(95%CI:0.77-1.15) p=0.54 

 

Secondary outcome

Primary outcome+TIA狭心症、手術や介入の必要な動脈硬化の複合アウトカム

E群:280/7220名 C群:319/7244名

HR=0.89(95%CI:0.75-1.04) p=0.14 

 

総死亡

E群:297/7220名 C群:303/7244名

HR=0.99(95%CI:0.85-1.17) p=0.93

 

心血管因性死亡

E群:58/7220名 C群:57/7244名

HR=1.03(95%CI:0.71-1.48) p=0.89

 

非心血管因性死亡

E群:239/7220名 C群:246/7244名

HR=0.99(95%CI:0.82-1.18) p=0.87

 

非致死性脳血管疾患

E群:117/7220名 C群:114/7244名

HR=1.04(95%CI:0.80-1.34) p=0.78

 

非致死性心筋梗塞

E群:20/7220名 C群:38/7244名

HR=0.53(95%CI:0.31-0.91) p=0.02 NNT=404名

 

一過性脳虚血発作

E群:19/7220名 C群:34/7244名

HR=0.57(95%CI:0.32-0.99) p=0.04 NNT=485名

 

狭心症

E群:46/7220名 C群:54/7244名

HR=0.86(95%CI:0.58-1.28) p=0.46

 

手術や介入の必要な動脈硬化

E群:75/7220名 C群:85/7244名

HR=0.89(95%CI:0.65-1.12) p=0.46

 

輸血や入院を必要とする重篤な頭蓋出血

E群:62/7220名 C群:34/7244名

HR=1.85(95%CI:1.22-2.81) p=0.004 NNH=257名

 

安全性

胃・腹部不快感、胸焼け、胃・十二指腸潰瘍、胃・腹部痛、逆流性食道炎、消化管出血、びらん性胃炎、吐き気はいずれもアスピリン群で有意に多い。胃・腹部圧迫感は有意差無し。

 

感想

60歳以上の高血圧、脂質異常症、糖尿病患者にアスピリンを上乗せしても、上乗せしないのと比べて心血管性死亡、脳卒中心筋梗塞の複合アウトカムは減らせないといった結果である。Secondary outcomeのうち、有意差が見られている非致死性心筋梗塞や一過性脳虚血発作に関してもNNTはそれぞれ404名、485名とあまり大きな影響ではなさそうである。また、ITT解析よりも差が出やすいmodified ITT解析が用いられている点からも、さらに効果は小さくなる可能性がある。もともと設定されていた追跡期間は6.5年であったが、両群の効果に差が出る見込みが見られず早期終了したようである。一方、有害事象はほとんどでアスピリン群が有意に多いといった結果である。消化管出血のNNHは102名であり、効果より有害事象の方が目立つような気もする。60歳以上の高齢者に対して、アスピリンを一次予防で用いることで得られるベネフィットは、この文献からは疑問である。

 

ということで、自分はこの論文を読んで、改めて薬理学などの「理論」では、実際に効果として現れる「現象」は予測できない事を実感した次第でした。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。