80歳以上の超高齢者では、積極的な降圧療法で脳卒中は防げますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、前回に引き続き、先日のJJCLIPで取り上げられていた論文の1つです。
HYVET試験という有名な研究らしいのです。
80歳を超えるような、超高齢者でも降圧治療を積極的にする必要があるのか?ということで、論文を読んでみました。
参考文献 Treatment of hypertension in patients 80 years of age or older.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18378519
PMID:18378519
研究デザイン:ランダム化比較試験、二重盲検
ランダム化されているか?
→されている
論文のPECO
P:収縮期血圧160mmHg以上の80歳以上の高齢者3845名
E:積極的な治療(150/80mmHgを目指す):インダパミド1.5mg服用。必要に応じてペリンドプリル2mgまたは4mgを服用
C:プラセボ服用
O:(Primary)致死性、非致死性脳卒中
※除外基準
研究に用いた薬剤の禁忌、急性高血圧、二次性高血圧、6か月以内の脳出血、降圧剤による治療が必要な心不全、3.5mmol/L < 血清クレアチニン < 5.5mmol/L、痛風、認知症、介護が必要な患者
一次アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→脳卒中なので真のアウトカム
盲検化されているか?
→されている
ITT解析を行われているか?
→行われている
脱落率は結果を覆すほどあるか?
脱落は合計17件(?)
→そこまで大きな影響は無さそう
追跡期間
中央値1.8年(平均2.1年)
結果
致死性・非致死性脳卒中
E群:12.4/1000人年 C群:17.7/1000人年
HR=0.70(95%CI:0.49-1.01) p=0.06 NNT=189人/年
脳卒中による死亡
E群:6.5/1000人年 C群:10.7/1000人年
HR=0.61(95%CI:0.38-0.99) p=0.046 NNT=239人/年
総死亡
E群:47.2/1000人年 C群:59.6/1000人年
HR=0.79(95%CI:0.65-0.95) p=0.02 NNT=81人/年
E群:2.2/1000人年 C群:3.1/1000人年
HR=0.72(95%CI:0.30-1.70) p=0.45
E群:5.3/1000人年 C群:14.8/1000人年
HR=0.36(95%CI:0.22-0.58) p<0.001 NNT=106人/年
心血管イベント
E群:33.7/1000人年 C群:50.6/1000人年
HR=0.66(95%CI:0.53-0.82) p<0.001 NNT=60人/年
感想
80歳以上の高齢者に対しても、ギリギリ有意差は出ていないが、積極的な降圧療法を行うことで脳卒中は減らせるかもといった結果である。しかし、実際どれぐらいの効果なのかを計算してみたところ、NNT=189人/年、つまり、189人積極的に降圧治療をしたら、1年で1人脳卒中の発症を防ぐことが出来るかもしれないといった程度で、臨床上の効果が大きいとは言いにくい印象。80歳を超えるような超高齢者では、転倒などのリスクなども考慮すると、そこまで躍起になって降圧療法を行う必要があるのだろうか?と、一旦立ち止まって考えさせられる論文であった。
最終的には、患者さんの価値観というところが重要となってくるのでしょう。もう80歳超えたけど、まだまだ長生きしたいという希望があり、わずかでも脳卒中や死亡リスクが減る可能性があるのであれば、それに賭けるといった患者さんもいらっしゃるでしょうし、そういった方なら積極的な降圧治療を行ってもいいのかもしれません。一方、あくまでもこの研究の結果からだと、あまり薬をたくさん飲みたくないといった患者さんであれば、中止や服用しないという選択肢もアリなのかもしれません。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。