第2世代統合失調症治療薬で肺炎リスクは増えますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、第2世代統合失調症治療薬と入院を要する肺炎発症の関連を検討した研究です。
参考文献 Second-Generation Antipsychotic Medications and Risk of Pneumonia in
Schizophrenia
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22282455
PMID:22282455
研究デザイン:ネステッドケースコントロール研究
論文のPECO
P:18~65歳の統合失調症患者のうち、最初の精神科受診以降肺炎を発症した1741名(Case群)と、年齢、性別、最初の受診年により1:4でマッチしたコントロール群
E:第2世代統合失調症治療薬服用あり
C:第2世代統合失調症治療薬服用無し
O:入院を要する肺炎の発症
※使用された第2世代抗精神病薬:クロザピン、オランザピン、クエチアピン、ゾテピン、リスペリドン、アミスルプリド
※現在の服用:入院前30日以内の服用、最近の服用:入院前31~181日までの服用
過去の服用:入院180日以上前までの服用
研究対象集団の代表性
→台湾の国民健康保険データベースが用いられており、問題は無いと思われる。
アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
マッチングされているか?
→症例群と対照群は年齢、性別、最初の受診年でマッチングされている
調節した交絡因子は何か?
Charlson併存疾患指数、精神科受診回数、身体疾患、入院180日以内の併用薬
結果
第2世代抗精神病薬全体
(過去の服用)
症例群:235/1739 対照群:1322/6949 調整RR=1.04(95%CI:0.83-1.30)
(最近の服用)
症例群:119/1739 対照群:563/6949 調整RR=0.90(95%CI:0.68-1.18)
(現在の服用)
症例群:1055/1739 対照群:3208/6949 調整RR=1.69(95%CI:1.43-2.01)
クロザピン
(過去の服用)
症例群:112/1739 対照群:332/6949 調整RR=1.47(95%CI:1.12-1.93)
(最近の服用)
症例群:20/1739 対照群:68/6949 調整RR=0.93(95%CI:0.52-1.67)
(現在の服用)
症例群:336/1739 対照群:510/6949 調整RR=3.18(95%CI:2.62-3.86)
オランザピン
(過去の服用)
症例群:262/1739 対照群:885/6949 調整RR=1.09(95%CI:0.90-1.31)
(最近の服用)
症例群:61/1739 対照群:192/6949 調整RR=1.04(95%CI:0.72-1.50)
(現在の服用)
症例群:199/1739 対照群:489/6949 調整RR=1.83(95%CI:1.48-2.28)
クエチアピン
(過去の服用)
症例群:221/1739 対照群:845/6949 調整RR=1.04(95%CI:0.85-1.26)
(最近の服用)
症例群:67/1739 対照群:181/6949 調整RR=1.03(95%CI:0.72-1.46)
(現在の服用)
症例群:198/1739 対照群:422/6949 調整RR=1.63(95%CI:1.31-2.04)
ゾテピン
(過去の服用)
症例群:238/1739 対照群:742/6949 調整RR=1.14(95%CI:0.93-1.39)
(最近の服用)
症例群:54/1739 対照群:141/6949 調整RR=1.02(95%CI:0.69-1.50)
(現在の服用)
症例群:130/1739 対照群:333/6949 調整RR=1.48(95%CI:1.15-1.91)
リスペリドン
(過去の服用)
症例群:492/1739 対照群:1945/6949 調整RR=1.16(95%CI:0.98-1.36)
(最近の服用)
症例群:129/1739 対照群:468/6949 調整RR=0.81(95%CI:0.62-1.04)
(現在の服用)
症例群:468/1739 対照群:1426/6949 調整RR=1.32(95%CI:1.12-1.56)
アミスルプリド
(過去の服用)
症例群:87/1739 対照群:262/6949 調整RR=1.07(95%CI:0.78-1.46)
(最近の服用)
症例群:29/1739 対照群:90/6949 調整RR=0.82(95%CI:0.48-1.39)
(現在の服用)
症例群:56/1739 対照群:189/6949 調整RR=1.14(95%CI:0.79-1.65)
第1世代抗精神病薬
(過去の服用)
症例群:468/1739 対照群:2808/6949 調整RR=0.88(95%CI:0.59-1.32)
(最近の服用)
症例群:212/1739 対照群:1037/6949 調整RR=0.67(95%CI:0.44-10.4)
(現在の服用)
症例群:1018/1739 対照群:2865/6949 調整RR=1.38(95%CI:0.92-2.07)
単独服用とクロザピン併用、クロザピン以外の抗精神病薬併用による調整RR
クロザピン
<単独>調整RR=2.01(95%CI:1.54-2.61)
オランザピン
<単独>調整RR=0.73(95%CI:0.51-1.06)
<クロザピン併用>調整RR=22.40(95%CI:9.43-53.18)
<クロザピン以外の統合失調症治療薬併用>調整RR=2.33(95%CI:1.71-3.18)
クエチアピン
<単独>調整RR=0.86(95%CI:0.61-1.23)
<クロザピン併用>調整RR=14.76(95%CI:6.44-33.84)
<クロザピン以外の統合失調症治療薬併用>調整RR=1.87(95%CI:1.37-2.56)
ゾテピン
<単独>調整RR=0.97(95%CI:0.65-1.47)
<クロザピン併用>調整RR=4.80(95%CI:2.17-10.64)
<クロザピン以外の統合失調症治療薬併用>調整RR=1.57(95%CI:1.09-2.27)
リスペリドン
<単独>調整RR=0.65(95%CI:0.53-0.80)
<クロザピン併用>調整RR=7.49(95%CI:4.47-12.56)
<クロザピン以外の統合失調症治療薬併用>調整RR=2.41(95%CI:1.93-3.00)
アミスルプリド
<単独>調整RR=0.51(95%CI:0.27-0.98)
<クロザピン併用>調整RR=21.44(95%CI:4.49-102.30)
<クロザピン以外の統合失調症治療薬併用>調整RR=1.36(95%CI:0.80-2.29)
感想
本研究の対象患者では、Table1より多くの患者で第1世代統合失調症治療薬の併用があるようで、複数の第2世代統合失調症治療薬を併用している患者も多そう。
クロザピンを除く、いずれの統合失調症治療薬も、単独で使用した場合は入院を要する肺炎のリスク比は増加傾向が見られないが、他の統合失調症治療薬との併用ではリスク比が増加する傾向がみられる。
この結果だけをもって第2世代統合失調症治療薬と肺炎発症の因果関係を語る事は難しく、積極的に中止すべきとは言いにくい印象。
薬局では、クロザピン併用患者に接する機会はそう多くないとは思うが、統合失調症治療薬が複数併用されている患者に対しては、このような症状が出ていないかも併せて確認してみてもいいかもしれないと感じた。
設定したアウトカムが肺炎発症という有害事象という事もあり、1つの研究から結論するのは難しく、評価は慎重に行うべきだと思うので、他にも同様の研究を行った論文にあたる必要がある。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。