カナグリフロジンで心血管イベントは減らせますか?

ご訪問ありがとうございます。

 

9/16(土)に、兵庫県養父市で開催された竹田城EBMワークショップに参加してきました。

 

最近は日程が合わなかったりで、student CASPなどのワークショップに参加できておらず、禁断症状が出ていたので、久しぶりのワークショップで楽しかったです(*'ω'*)

 

そこで今回は、お題論文となっていたCANVAS programについてまとめてみます。

 

参考文献 Canagliflozin and Cardiovascular and Renal Events in Type 2 Diabetes

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28605608

いつの間にか、フルテキスト見られなくなっているんですよね・・・。

 

PMID:28605608

 

研究デザイン:ランダム化比較試験(非劣性試験:非劣性マージン1.3)

CANVAS試験とCANVAS-R試験2つ研究の結果を統合している

 

☆最近は非劣性試験が増えてきている印象です。多くの疾患において標準治療が確立されてきているため、分野によるのでしょうが、最近ではプラセボ対照の比較試験が倫理的に許されなくなってきているようです。

 

論文のPECO

P:2型糖尿病で心血管イベントハイリスクの患者10142名

E:カナグリフロジン(100mg、300mg)

C:プラセボ

O:心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

 

CANVAS試験

→カナグリフロジン300mg、カナグリフロジン100mg、プラセボに1:1:1で割り付け。

CANVAS-R試験

→カナグリフロジン(初期用量100mg、その後必要に応じて300mgに増量)、プラセボに1:1で割り付け。

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている(computer-generated randomization)

 

一次アウトカムは明確か?

→複合アウトカムなので明確といえる

 

※複合アウトカムでは、含まれているアウトカムのうちどれか1つが発生した時点でその患者の追跡は打ち切りになるそうです。

(例)死亡、心筋梗塞脳卒中の複合アウトカムが設定されている場合、心筋梗塞を発症し、その後脳卒中を発症したとしても最初に発生した心筋梗塞のみイベントとしてカウントされる。そのため、実際に起こったイベント数よりは少なくカウントされることになる。

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→二重盲検されている(Randomization, Treatment, and Follow-upに、Participants and all trial staff were unaware of the individual treatment assignments until completion of the trial.と記載がある)

※しかし、HbA1cなどを確認するためブラインドが見破られている可能性がある

 

隠蔽化されているか?

→隠蔽化されている(Randomization was performed centrally through an interactive Web-based response system)中央割り付け

 

※今まで盲検化と隠蔽化の違いがあまりよく分かっていなかったので、ちょっと補足を。

隠蔽化(concealment:目の前の患者をこれから割り付けする時に、すでに割り付けられた別の患者がどちらの群に割り付けられたか、割り付けを行う者に分からないようにする(介入が始まる前)

盲検化(blind):研究を進めていく上で、追跡終了までどちらの群に割り付けられたか分からないようにする事(介入が始まった後)

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる(Table1参照)

※最近はTable1のベースラインについて、p値を記載しなくなっているらしいです。ベースラインで比較している項目がたくさんあるので、どれかしら有意差が出てしまう可能性があるし、その有意差を意識しすぎると振り回されてしまう事があるからという理由らしいです。なので、p値ではなく実際の数字をみて大きな偏りが無いか比較していくことが重要だそうです。

 

ITT解析を行われているか?

→ITT解析されている

※ITT解析を行うと差が出にくい傾向になります。非劣性試験では、ITT解析を使うと非劣性が示されやすくなる懸念があり、PPSで検討する必要があるのではないでしょうか?

 

サンプルサイズ

→688件のイベント(パワー90%、α=0.05)

ちなみにこれは、非劣性を示すためのサンプルサイズ

※サンプルサイズが多くなると有意差が出やすくなる。中心極限定理(例数が増えてくると、分布が中央に集まりやすくなる。そのため、95%信頼区間の幅が狭くなる。)が関係している。

参照↓

https://bellcurve.jp/statistics/course/8543.html

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→追跡率96%

 

追跡期間

→平均188.2週間(CANVAS:295.9週、CANVAS-R:108.0週)

 

結果

【ベースライン】

平均年齢:カナグリフロジン群:63.2±8.3歳 プラセボ群:63.4±8.2歳

糖尿病の罹患期間:カナグリフロジン群:13.5±7.7年 プラセボ群:13.7±7.8年

BMI:カナグリフロジン群:31.9±5.9 プラセボ群:32.0±6.0

HbA1c:カナグリフロジン群:8.2±0.9% プラセボ群:8.2±0.9%

 

【アウトカム】

(Primary)心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

カナグリフロジン群:26.9件/1000人年vs プラセボ群:31.5件/1000人年

HR=0.86(95%CI:0.75~0.97) 非劣性 p<0.001  優越性 p=0.02 

NNT=218/年

 

心血管死亡

カナグリフロジン群:11.6件/1000人年vs プラセボ群:12.8件/1000人年

HR=0.87(95%CI:0.72~1.06) 

 

非致死性心筋梗塞

カナグリフロジン群:9.7件/1000人年vs プラセボ群:11.6件/1000人年

HR=0.85(95%CI:0.69~1.05)

 

非致死性脳卒中

カナグリフロジン群:7.1件/1000人年vs プラセボ群:8.4件/1000人年

HR=0.90(95%CI:0.71~1.15)

 

【有害事象】

切断

カナグリフロジン群:6.3件/1000人年vs プラセボ群:3.4件/1000人年

HR=1.97(95%CI:1.41~2.75) p<0.001 NNH=345/年

 

全骨折

カナグリフロジン群:15.4件/1000人年vs プラセボ群:11.9件/1000人年

HR=1.26(95%CI:1.04~1.52) p=0.02 NNH=286/年

 

男性の性器感染

カナグリフロジン群:34.9件/1000人年vs プラセボ群:10.8件/1000人年

p<0.001 NNH=42/年

 

女性の真菌感染

カナグリフロジン群:68.8件/1000人年vs プラセボ群:17.5件/1000人年

p<0.001 NNH=20/年

 

感想

 カナグリフロジンで、心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムはHR=0.86(95%CI:0.75~0.97)ということで、95%信頼区間の上限(0.97)が非劣性マージンの1.3を下回っていることからプラセボに対する非劣性が示されている。95%信頼区間が1をまたいでいない事から、優越性についても示されている(p=0.02)。

 心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムとしては有意差が付いているものの、個々のアウトカム(心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)はいずれも有意差が付いていない。

 この研究はそもそも非劣性試験として設計されている点からも、結果の解釈には注意が必要かとは思われる。

 用量として、カナグリフロジン100mgを用いた患者と300mgを用いた患者、初期用量として100mg、その後300mgに増量した患者がいる。本来であれば、用量別の結果を示すべきだろうが、それをまとめてカナグリフロジン群とまとめている所も問題があるかと思われる。この研究は、CANVAS試験とCANVAS-R試験の結果を統合したものであるが、この2つの研究においては追跡期間も異なる点から、統合する事が妥当ではないように思われる。

 Figure1を見てみると、そもそもHbA1cは時間経過とともにカナグリフロジン群とプラセボ群の差が小さくなってきている。一方で、体重や収縮期血圧は時間経過を経ても、2群間の差が維持されている。もしかすると、Primary outcomeはHbA1cというよりは、これらの影響によるものなのかもしれない。

 あちこちで言われている切断リスクについてはHR=1.97(95%CI:1.41~2.75)、そのHHN=345/年であり、重大なイベントであることを考えると決して少なくないと感じた。男性の性器感染や女性の真菌感染も頻度が高いと思う。

 サブグループ解析を見てみると、βブロッカー服用患者や利尿薬を服用している患者でカナグリフロジン優位という結果になっている。

 骨折リスクなども懸念されるため、骨粗鬆症リスクのあるような高齢者へは避けた方が良さそうな気がするし、感染症リスクを高める可能性がある事も示されている。今回の結果を加味すると、使用を検討するような患者というのはかなり限定的なものになるのではないだろうか。

 糖尿病罹患期間は平均13.5年ほど、アテローム性血管疾患既往のある患者が70%以上と、比較的進行した糖尿病患者が対象となっており、少なくとも現時点では、このような患者にカナグリフロジンを積極的に用いるような根拠とはならないように思われる。

 

実はまだ、EMPA-REGもちゃんと読んでいないので読んでみます。

Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.

リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378978

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。