エンパグリフロジンで心血管イベントは防げますか?

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今更ながら、SGLT-2阻害薬エンパグリフロジンの論文である、EMPA-REGを読んでみました。

 

参考文献 Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes.

リンク  https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26378978

 

PMID:26378978

 

研究デザイン:ランダム化比較試験(非劣性試験) 非劣性マージン1.3

 

論文のPECO

P:18歳以上の心血管イベント高リスクの2型糖尿病患者7028名

BMI<45、eGFR>30ml/min/1.73m2HbA1c=7.0~9.0%(12週以内に血糖降下薬の服用無しの場合)、7.0~10.0%(12週以内に血糖降下薬服用有りの場合)

E:エンパグリフロジン(10 or 25mg)

C:プラセボ

O:(Primary) 心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

 (Secondary)Primary outcomeと不安定狭心症による入院

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている(computer-generated random-sequence)

 

一次アウトカムは明確か?

→明確といえる

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→二重盲検されている。しかし、HbA1cの測定値によりブラインドが見破られている可能性あり

 

隠蔽化されているか?

→隠蔽化されている(interactive voice- and Web-response systemが用いられている)

中央割り付け

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる

 

ITT解析を行われているか?

→mITT解析されている

 

サンプルサイズ

→691件のイベント発生(パワー90%)

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→追跡率=99.2%

 

追跡期間

→中央値3.1年

 

結果

【ベースライン】・・・Supplementary Appendixより↓

http://www.nejm.org/doi/suppl/10.1056/NEJMoa1504720/suppl_file/nejmoa1504720_appendix.pdf

平均年齢:プラセボ群:63.2±8.8歳 エンパグリフロジン群:63.1±8.6歳

BMIプラセボ群:30.7±5.2 エンパグリフロジン群:30.6±5.3

HbA1cプラセボ群:8.08±0.84% エンパグリフロジン群:8.07±0.85%

糖尿病歴10年以上:プラセボ群:57.4% エンパグリフロジン群:57.0%

 

【アウトカム】

(Primary outcome)心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム

プラセボ群:43.9/1000人年vs エンパグリフロジン群:37.4/1000人年

RR=0.86(95%CI:0.74~0.99) 非劣性p<0.001 優越性p=0.04 NNT=63

 

心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中、不安定狭心症による入院の複合アウトカム

プラセボ群:52.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:46.4/1000人年

RR=0.89(95%CI:0.78~1.01) 非劣性p<0.001 優越性p=0.08

 

総死亡

プラセボ群:28.6/1000人年vs エンパグリフロジン群:19.4/1000人年

RR=0.68(95%CI:0.57~0.82) p<0.001 

 

心血管死亡

プラセボ群:20.2/1000人年vs エンパグリフロジン群:12.4/1000人年

RR=0.62(95%CI:0.49~0.77) p<0.001

 

非致死性心筋梗塞

プラセボ群:18.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:16.0/1000人年

RR=0.87(95%CI:0.70~1.09) p=0.22

 

非致死性脳卒中

プラセボ群:9.1/1000人年vs エンパグリフロジン群:11.2/1000人年

RR=1.24(95%CI:0.92~1.67) p=0.16

 

心不全による入院

プラセボ群:14.5/1000人年vs エンパグリフロジン群:9.4/1000人年

RR=0.65(95%CI:0.50~0.85) p=0.002 

 

【有害事象】

生殖器感染症

(男性)プラセボ群:1.5% vs エンパグリフロジン群:5.0%

(女性)プラセボ群:2.6% vs エンパグリフロジン群:10.0%

 

骨折

プラセボ群:3.9% vs エンパグリフロジン群:3.8%

 

感想

 エンパグリフロジン服用により、プラセボに対し心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムはRR=0.86(95%CI:0.74~0.99)となり非劣性が示され、かつ優越性も示されている。

 しかし、個々のアウトカムを見てみると、心血管死亡は有意に減っているが、非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中は有意差無しとなっている。どのような原因による死亡が増えているのだろうか。心不全

今回の研究の対象患者は、糖尿病期間10年以上が57%程度と比較的罹患期間が長い患者が対象となっている。

 Primary outcomeの95%信頼区間上限は0.99となっており、今回の解析ではITT解析よりは有意差の出やすいmITT解析を行っているため、優越性に関してはITT解析を行うと有意差無しとなってしまう可能性もあるかもしれない。

 この研究では、CANVAS同様にエンパグリフロジンの用量10mgと25mgを合体させたPoolとして解析している。本来なら10mg服用群と25mg服用群に分けて解析すべきなのではないだろうかと思う。

 CANVAS programでは骨折がカナグリフロジン服用群で増加する可能性が指摘されていたが、エンパグリフロジンではそのような傾向は見られていない。しかし、生殖器感染症はやはり大きく増加する事が示唆されている。

 Supplementary Appendixより、メトホルミン併用患者が70%以上であり、この事からも糖尿病治療の第一選択としてエンパグリフロジンを強く推奨するような論文ではないように思われる。 

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。