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今回はMRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を新規に開始し、その後に高カリウム血症を起こした患者で、MRAを中止した場合と継続した場合の予後を比較した研究の論文を読んでみます。
参考文献 Stopping Mineralocorticoid Receptor Antagonists After Hyperkalaemia: Trial Emulation in Data from Routine Care
リンク https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34196082/
PMID:34196082
研究デザイン:target trial emulation
論文のPECO
P:MRAを新規に開始した後、高カリウム血症(血清カリウム>5.0 mmol/L)が起こった患者
E:高カリウム血症から6ヶ月以内にMRAを中止
C:少なくとも6ヶ月間はMRAを継続
O:心不全による入院+脳卒中+心筋梗塞+死亡の複合アウトカム
※使用していたMRAは97%がスピロノラクトン、 3%がエプレレノン
※「index高カリウム血症(最初の高カリウム血症)」から6ヶ月以内に、新たにMRAの処方がなかった場合はMRA中止と判断した
除外基準:透析患者、介護施設入所患者、eGFRやカリウム値の情報が欠如している患者
情報源は何か?
→ SCREAM(スウェーデンのストックホルムの医療情報データベース)に登録された患者情報
真のアウトカムか?
→真のアウトカムと言える
交絡因子
併存疾患(糖尿病、高血圧、心筋梗塞、末梢血管疾患、脳血管疾患)、併用薬(ACE阻害薬、ARB、β遮断薬、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、チアジド/ループ利尿薬、NSAIDs、その他の降圧薬)、eGFR
その他
Immortal-time bias(不死時間バイアス)を避けるような工夫や、intention-to-treat解析に近づくような工夫を行なっている
Chat-GPTに今回の研究のデザインを説明させてみました。
『Target trial emulationとは、「本当はRCTを行いたいけれど実施が難しい場合に、観察研究データを使ってRCTに近い解析を再現する方法」です。今回の研究では、高カリウム血症を起こした患者に対して、「MRAを中止する場合」と「継続する場合」を比較しました。
ただし通常の観察研究では、「後からMRAを中止した患者」を最初から中止群として分類してしまう問題があります。例えば、4か月後にMRAを中止した患者は、その4か月間を生存していなければ「中止群」に入ることができません。つまり中止群には、「少なくとも一定期間は生存できた患者」が集まりやすくなります。
この“生き延びなければその群に入れない期間”を immortal time(不死時間)と呼び、結果を歪める原因になります。 そこで本研究では、各患者を「MRAを中止した世界」と「継続した世界」の2つに複製(cloning)しました。 その後、実際の経過と合わなくなった時点で、そのデータを打ち切り(censoring)しました。
さらに、打ち切りによって生じる偏りを補正するために、重み付け(weighting)を行いました。
このようにして、研究者は過去の診療データを使いながら、RCTに近い公平な比較を目指したのです。』
結果
【ベースライン】
・年齢:76歳
※69%の患者が心不全既往あり
・eGFR:49ml/min/1.72m2
(index時の高カリウム血症の重症度)
・Mild(5.0〜5.5mmol/L):75%
・Moderate(5.5〜6.0mmol/L):18%
・Severe(6.0mmol/L以上):7%
・MRA開始後 3ヶ月以内の高カリウム血症:58%
(併存疾患)
・心筋梗塞:34%
・高血圧:77%
・末梢血管疾患:16%
・脳血管疾患:20%
・糖尿病:38%
(併用薬)
・ACE阻害薬/ARB:77%
・βブロッカー:78%
・チアジド/ループ利尿薬:76%
・その他の降圧薬:30%
・NSAIDs:11%
【アウトカム】
Primary outcome(心不全による入院+脳卒中+心筋梗塞+死亡の複合アウトカム)
中止群:63.6%(95%CI:62.0〜65.4) vs 継続群:60.0%(95%CI:58.7〜61.6)
HR=1.10(95%CI:1.06~1.14)
総死亡
中止群:42.0%(95%CI:40.2〜43.8) vs 継続群:38.7%(95%CI:37.2〜40.1)
HR=1.11(95%CI:1.05~1.17)
MACE(心血管死亡+心筋梗塞+脳卒中+心不全)
中止群:51.3%(95%CI:49.4〜53.3) vs 継続群:48.6%(95%CI:47.0〜50.2)
HR=1.05(95%CI:1.01~1.10)
高カリウム血症再発(血清カリウム>5.0mmol/L)
中止群:50.1%(95%CI:48.2〜52.3) vs 継続群:63.0%(95%CI:61.4〜64.6)
HR=0.75(95%CI:0.72~0.79)
中等度/重度の高カリウム血症再発(血清カリウム>5.5mmol/L)
中止群:24.0%(95%CI:22.4〜25.9) vs 継続群:32.6%(95%CI:31.0〜34.1)
HR=0.73(95%CI:0.67~0.78)
備考
MRA新規開始後に高カリウム血症を起こした患者では、その後にMRAを中止した方が高カリウム血症の再発は少なくなっています。しかしながら、心不全による入院や心筋梗塞、脳卒中、死亡の複合アウトカムであるPrimary outcomeや、総死亡、MACEなどは中止群で多くなっています。
観察研究のデータを用いて、RCTを模倣するように解析した研究デザインがtarget trial emulationです。RCTになるべく近くなるようにデザインされた研究ですが、この研究も観察研究の1つなので、未知のバイアスなどの影響は考慮する必要があります。
本研究のアウトカムの発現状況を見てみると、Primary outcomeは両群ともに60%以上、死亡も40%近くと、もともとかなり予後の悪い患者集団であったことが想像できます。少なくともこのような患者では血清カリウム値が5.0mmol/Lを少し超えた時に、MRAを即中止するべきかというと、そこは慎重に判断する必要があるように思います。もちろん血清カリウム値のモニタリングは重要です。
MRA中止群でも高カリウム血症の再発は50%程度に見られています。ベースラインで併用薬としてACE阻害薬やARBを使用していた患者の割合が 77%と高く、 これらの薬剤も高カリウム血症を起こすため、このことも影響しているのかもしれません。
今回の研究におけるMRAはスピロノラクトンが97%、残りはエプレレノンでした。比較的最近発売が開始されたエサキセレノンやフィネレノンは、今回の研究に含まれていないことにも留意が必要です。
RAS阻害薬に関しても同様の報告があり、こちらもあらためて読んでみようと思います。
Stopping renin-angiotensin system inhibitors after hyperkalemia and risk of adverse outcomes.
PMID:34610282
リンク:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34610282/
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。