シタグリプチンは心血管イベントに影響ありますか?
ご訪問ありがとうございます。
昨日、社内で糖尿病についての勉強会があり、それに関連した論文をということで、DPP-4阻害薬のシタグリプチンと心血管イベントの関連について論文を探してみました。
参考文献 Effect of Sitagliptin on Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes
リンク http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1501352
研究デザイン:ランダム化、二重盲検、プラセボ比較
ランダム化されているか?
METHODSの冒頭にrandomizedの記載あり→ランダム化
論文のPECO
P:50歳以上の、2型糖尿病で心血管疾患があり、1~2種類の維持用量の経口血糖降下薬服用(メトホルミン、ピオグリタゾン、SU剤)、もしくはインスリンを使用している状態でHbA1cが6.5~8.0の患者14,671名
※心血管疾患:冠動脈疾患、虚血性脳血管疾患、アテローム性末梢動脈疾患
E:シタグリプチン服用
C:プラセボ服用
O:(Primary)心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、不安定狭心症の4つの複合アウトカム
(Secondary)心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の3つの複合アウトカム、Primary outcomeの個々の構成要素、致死性・非致死性心筋梗塞、致死性・非致死性脳卒中、総死亡、心不全による入院
※除外基準
3カ月以内のDPP-4阻害薬、GLP-1アゴニスト、チアゾリジン系(ピオグリタゾンを除く)の使用、12カ月以内に2回以上の低血糖歴、eGFR<30ml/min/1.73m2
一次アウトカムは明確か?
Primary outcomeとして、心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、不安定狭心症の4つの複合アウトカムが設定されている。この中に、入院というソフトエンドポイントが含まれているので明確と言い難いように感じる。
真のアウトカムか?
真のアウトカム
盲検化されているか?
Methodsの1行目にdouble-blindの記載があるので盲検化
但し、「個々の患者の適切な血糖目標に到達させるため、必要に応じてオープンラベルが推奨された」という記載がある。
ITT解析を行われているか?
primary outcomeの非劣勢試験のメインはPer-protocol解析、サブとしてITT解析
secondary outcomeの非劣勢試験はper-protocol解析
primary outcome、secondary outcomeの優越性はITT解析
平均追跡期間 3.0年
脱落率は結果を覆すほどあるか?
追跡率94.2%
結果
非劣勢試験(per-protocol解析)
primary composite outcome(心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、不安定狭心症の4つの複合アウトカム)
シタグリプチン群:3.73/100人年 プラセボ群:3.82/100人年
HR:0.98(95%CI:0.88~1.09) p<0.001(非劣勢が認められた)
secondary composite outcome(心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の3つの複合アウトカム)
シタグリプチン群:3.24/100人年 プラセボ群:3.28/100人年
HR:0.99(95%CI:0.88~1.09) p<0.001(非劣勢が認められた)
優勢試験(ITT解析)
primary composite outcome(心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、不安定狭心症の4つの複合アウトカム)
シタグリプチン群:4.06/100人年 プラセボ群:4.17/100人年
HR:0.98(95%CI:0.89~1.08) p=0.65
secondary composite outcome(心血管性死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の3つの複合アウトカム)
シタグリプチン群:3.58/100人年 プラセボ群:3.62/100人年
HR:0.99(95%CI:0.89~1.10) p=0.84
心血管死亡
シタグリプチン群:1.72/100人年 プラセボ群:1.67/100人年
HR:1.03(95%CI:0.89~1.19) p=0.71
不安定狭心症による入院
シタグリプチン群:0.54/100人年 プラセボ群:0.61/100人年
HR:0.90(95%CI:0.70~1.16) p=0.71
致死性・非致死性心筋梗塞
シタグリプチン群:1.42/100人年 プラセボ群:1.51/100人年
HR:0.95(95%CI:0.81~1.11) p=0.49
致死性・非致死性脳卒中
シタグリプチン群:0.83/100人年 プラセボ群:0.87/100人年
HR:0.97(95%CI:0.79~1.19) p=0.76
総死亡
シタグリプチン群:2.48/100人年 プラセボ群:2.45/100人年
HR:1.01(95%CI:0.90~1.14) p=0.88
心不全による入院
シタグリプチン群:1.07/100人年 プラセボ群:1.09/100人年
HR:1.00(95%CI:0.83~1.20) p=0.98
急性膵炎
シタグリプチン群:0.11/100人年 プラセボ群:0.06/100人年
HR:1.93(95%CI:0.96~3.88) p=0.07
膵臓がん
シタグリプチン群:0.04/100人年 プラセボ群:0.07/100人年
HR:0.66(95%CI:0.28~1.51) p=0.32
重篤な低血糖
シタグリプチン群:0.78/100人年 プラセボ群:0.70/100人年
HR:1.12(95%CI:0.89~1.40) p=0.33
安全性
両群に大きな差のある有害事象は無い
感想
DPP-4阻害薬は心血管イベントを増やす可能性があるのではないかと言われていたようである。本研究では、試験に、シタグリプチンの販売元であるメルク社が関与している所は注意が必要。また、primary composite outcomeには、判断する医師の裁量次第な部分がある、入院というソフトエンドポイントが項目に含まれている事にも注意が必要。
この研究では、シタグリプチンは心血管イベントを増やしもしないが、減らしもしないというような結果になっている。プラセボに対して非劣勢が認められたという事は、悪影響が無いという解釈でいいのでしょうか?
secondary outcomeではあるが、個々の項目について見て行っても大きくプラセボ群とHRに差のあるような項目は無い。
今後、更なる細かい患者背景ごとの研究や、併用薬ごとの研究に関しても調べていきたい。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。