ベンラファキシンの大うつ病に対する効果はどの程度ですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、8/6(土)の夜に開催した居酒屋抄読会in難波で取り扱った、ベンラファキシンの効果に関する論文についてです。
参考文献 A randomized, double-blinded, placebo-controlled study to evaluate the efficacy and safety of venlafaxine extended release and a long-term extension study for patients with major depressive disorder in Japan
リンク http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4667751/pdf/yic-31-8.pdf
- PMID:26513202
研究デザイン:二重盲検 プラセボ比較 ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
タイトルにズバリRandomizedの記載があるのでランダム化
論文のPECO
P:大うつ病性障害と診断を受けた20歳以上の日本人の外来患者(平均年齢38.4歳)
適格基準
・精神症状を伴わない大うつ病性障害と診断された、大うつ病性障害-単一エピソードもしくは、大うつ病性障害-反復性の患者。
・スクリーニング期間の前に、現在のエピソードを単一エピソードでは少なくとも90日以上、反復では少なくとも28日以上継続している患者。
・スクリーニング期間および、ベースラインにおいてMADRS合計スコアが26ポイント以上で、スクリーニング開始時からベースラインまでにMADRS合計スコアが25%以上増減していない患者。
・QIDS16-SR-Jがスクリーニング開始時および、ベースラインで16ポイント以上の患者。
・スクリーニング開始時および、ベースラインのCGI-Sが4ポイント以上の患者
E:ベンラファキシン服用
※75mg/day(固定用量)、75~225mg/day(可変用量)
C:プラセボ服用
O:(Primary)ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D17)の8週間後のベースラインからの変化
(Secondary)モンゴメトリー/アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)、自己記入式簡易抑うつ症状尺度(QIDS16-SR-J)、HAM-D6、臨床全般印象尺度(CGI-S、CGI-I)
※除外基準
過去にベンラファキシン・デスベンラファキシンを服用、人格障害・知能発育不全の歴、薬物乱用、精神病性障害、認知症、強迫障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、双極性障害、不安障害、自殺企図、臨床上重大な症状、心血管疾患のような不安定な臨床症状、過去に2種類以上の抗うつ薬に反応がなかった患者、6か月以上ベンゾジアゼピンによる治療を行ったことがある患者、器質性精神障害(全身症状、神経症状)に関連するうつ病
※各評価尺度について
HAM-D17・・・うつ病と診断された患者の重症度を評価するための尺度。点数が高い方が重症度は高い。うつ病の諸症状を17項目に分け、それぞれの質問に回答してもらいそれを点数化する。患者自身が評価するのではなく、訓練を積んだ医師が患者の状態を見て点数をつける。
MADRS・・・うつ病の重症度評価に用いられている尺度。点数が高いほど重症度は高い。こちらは、HAM-D17の項目に含まれている身体症状などが除かれており、より精神症状の変化を重視した尺度。患者自身が評価するのではなく、訓練を積んだ医師が患者の状態を見て点数をつける。
QIDS16-SR-J・・・全9項目16問の自記式簡易抑うつ症状尺度。うつ症状の評価やスクリーニングにも使われる。点数が高いほどうつ病の重症度が高い。患者自身が自分の状態を評価する。
CGI・・・臨床全般印象度。病状全般を評価するもので、重症度評価(CGI-S)と改善度評価(CGI-I)に分かれる。
サンプルサイズ
両比較において、α=5%、パワー90%をもってプライマリーアウトカムの差を検出(サンプルサイズが何名なのかの記載なし)
一次アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→代用のアウトカム
盲検化されているか?
タイトルにdouble-blindの記載があるので盲検化
ITT解析を行われているか?
Statistical analysis に、The efficacy analysis was based on the full analysis set,
→FASが用いられている
脱落率は結果を覆すほどあるか?
Figより、Randomizedが538名、各群のAnalyzedが174名、177名、184名なので、
(174+177+184)/538×100=97.955
追跡率98%(80%以上なので十分と考えられる)
追跡期間
8週間
ベースラインの各評価尺度の値
|
Fixed群 |
Flexible群 |
|
HAM-D17 |
22.4±4.1 |
22.6±4.1 |
22.4±4.1 |
MADRS |
33.2±5.1 |
32.6±4.4 |
32.9±4.8 |
CGI-S |
4.5±0.7 |
4.5±0.6 |
4.5±0.6 |
QIDS16-SR-J |
17.9±2.1 |
17.6±1.9 |
17.6±1.7 |
結果
HAM-D17のベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
-9.25 |
|
|
|
|
Fixed群 |
-10.76 |
1.50 |
0.14-2.87 |
0.031 |
flexible群 |
-10.37 |
1.12 |
-0.24-2.48 |
0.106 |
HAM-D6のベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
-4.92 |
|
|
|
|
Fixed群 |
-6.10 |
1.18 |
0.39-1.97 |
0.004 |
flexible群 |
-5.99 |
1.06 |
0.28-1.85 |
0.008 |
MADRSのベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
-12.41 |
|
|
|
|
Fixed群 |
-15.30 |
2.88 |
0.77-5.00 |
0.008 |
flexible群 |
-15.05 |
2.64 |
0.54-4.74 |
0.014 |
QIDS16-SR-Jのベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
-6.50 |
|
|
|
|
Fixed群 |
-8.00 |
1.50 |
0.48-2.53 |
0.004 |
flexible群 |
-7.27 |
0.77 |
-0.25-1.79 |
0.137 |
CGI-Sのベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
-1.31 |
|
|
|
|
Fixed群 |
-1.57 |
0.26 |
0.03-0.49 |
0.025 |
flexible群 |
-1.56 |
0.25 |
0.02-0.48 |
0.032 |
CGI-Iのベースラインからの変化
|
ベースからの変化 |
Placeboとの差 |
95%CI |
p値 |
|
|
|
|
|
Fixed群 |
|
0.21 |
-0.02-0.45 |
0.073 |
flexible群 |
|
0.25 |
0.02-0.48 |
0.034 |
有害事象
|
Fixed群(n=174) |
Flexible群(n=180) |
Placebo群(n=183) |
吐き気 |
38(21.8%) |
50(27.8%) |
17(9.3%) |
鼻咽頭炎 |
30(17.2%) |
26(14.4%) |
36(19.7%) |
眠気 |
21(12.1%) |
29(16.1%) |
13(7.1%) |
頭痛 |
11(6.3%) |
15(8.3%) |
10(5.5%) |
口渇 |
11(6.3%) |
18(10.0%) |
14(7.7%) |
便秘 |
17(9.8%) |
17(9.4%) |
6(3.3%) |
めまい |
6(3.4%) |
10(5.6%) |
4(2.2%) |
心拍数増加 |
10(5.7%) |
13(7.2%) |
4(2.2%) |
不安 |
8(4.6%) |
9(5.0%) |
4(2.2%) |
腹部不快感 |
5(2.9%) |
11(6.1%) |
2(1.1%) |
3(1.7%) |
15(8.3%) |
1(0.5%) |
感想
本研究の結果、HAM-D17のスコアは固定用量群ではプラセボ群と比較して有意に改善しているが、可変用量群では有意差無しとなっている。また、有意差が出ている固定用量群でも、プラセボ群との差は1.5ポイントと、臨床上大きな差とは言い難いように思われる。精神科系の医薬品の臨床試験では、おそらくプラセボによる症状の改善が起こりやすいようで、本研究でもプラセボによるスコアの改善が顕著に現れているように感じた。実薬群のスコア改善も、ほとんどがプラセボ効果的な側面があるようだ。
除外基準も多く設定されているが、ベンゾジアゼピン服用歴のある患者など、比較的効果が出にくいと思われる条件の患者が除外されている可能性もある。この点は注意が必要と考えられる。
有害事象に関して見てみると、吐き気は出現しやすいようである。心拍数増加や多汗など交感神経興奮による症状も出る可能性があるようである。
プラセボとの比較ではあまり大きな差ではないように思われるが、プラセボ効果と実薬の効果の合計として現れるはずなので、こちらから積極的には使用を勧めないにしても、医師が使ってみたいというのであれば、使ってもいいかな?といった感じだろうか。
ベンラファキシンは、海外では1990年代から発売されており、すでにジェネリック医薬品も発売されているようだが、日本ではかなり遅れて2016年6月にようやく発売の運びとなった。実は、2000年代に日本人を対象として行われた臨床試験で思ったような効果が認められなかったという背景があるようで、今回取り上げた研究は日本人を対象に再度チャレンジした研究なのだそうだ。もしかすると、日本人には効果が出にくい可能性もあるのかもしれない。今後、日本人への使用実績が積み上がって、効果や有害事象についてデータが蓄積してきてから再度評価する必要があるだろう。
また、9月にも居酒屋抄読会を開催予定ですので、どうぞ宜しくお願い致します。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。