イチョウ葉エキスは認知症予防に有効ですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、ドラッグストアでもサプリメントとして購入できるイチョウ葉エキスの認知症予防効果についての論文です。
参考文献 Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19017911
PMID:19017911
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:認知機能が正常(2587名)または軽度認知機能障害のある(482名)75歳以上の高齢者
E:イチョウ葉エキス120mg×2回/日(1545名)
C:プラセボ(1424名)
※除外基準
→もともと認知症の患者、ワルファリン服用中、認知症に対してコリンエステラーゼ阻害剤服用中、研究機関中にOTCのイチョウ葉エキス摂取を拒む患者、三環系抗うつ薬・抗精神病薬・顕著な抗精神作用または中枢性抗コリン作用を有する薬物による治療中(SSRIは対象外)、400IU/日以上のビタミンE摂取、出血性疾患の既往歴、1年以内のうつ病による入院または10年以内の電気痙攣療法、パーキンソン病既往歴または抗パーキンソン病薬服用、甲状腺検査異常、血清クレアチニン>2.0mg/dL、肝機能検査で標準値上限の2倍以上の数値、ベースラインのビタミンB12<210pg/mL、ヘマトクリット値<30%、血小板数<100×103/μL、平均余命<5年、イチョウ葉アレルギー
一次アウトカムは明確か?
→明確と言える
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
→3000名(パワー96% α=5%)
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率=93.7%
追跡期間
→中央値6.1年
結果
・ベースラインの平均年齢:79.1歳
全認知症
①全患者
E群:3.27/100人年 vs C群:2.94/100人年
HR=1.12(95%CI:0.94~1.33) p=0.21
②ベースラインで認知機能正常の患者
E群:2.25/100人年 vs C群:2.16/100人年
HR=1.05(95%CI:0.84~1.30) p=0.67
③ベースラインで軽度認知機能障害があった患者(MCI)
E群:9.82/100人年 vs C群:8.68/100人年
HR=1.13(95%CI:0.85~1.50) p=0.39
①全患者
E群:3.04/100人年 vs C群:2.63/100人年
HR=1.16(95%CI:0.97~1.39) p=0.11
②ベースラインで認知機能正常の患者
E群:2.09/100人年 vs C群:1.86/100人年
HR=1.13(95%CI:0.90~1.42) p=0.30
③ベースラインで軽度認知機能障害があった患者(MCI)
E群:9.12/100人年 vs C群:8.28/100人年
HR=1.10(95%CI:0.83~1.47) p=0.56
有害事象
2群間で発生に大きな差のあるものは無さそう
感想
本研究の結果、イチョウ葉エキスを摂取した群では、プラセボを摂取した群より全認知症、アルツハイマー型認知症ともにやや増加傾向(ただし有意差は無し)という結果であった。
私の勉強不足により、この認知症の定義の妥当性がどれほどのものなのかが分からないし、イチョウ葉エキスの摂取が認知症を増やすという事を示唆しているわけではないと思う。対象患者のベースラインにおける平均年齢が79歳と高齢で、少なくともこのような高齢患者に対する認知症予防効果はあまり期待できないのかと感じた。
薬局店頭においても、相談に来られたお客様に対して積極的な摂取を勧める根拠となる結果ではない。
一方、有害事象に関しては、プラセボと比較して大きく発生が起こりやすいものも無さそうであり、お客様が積極的な購入の意志を持っておられる場合は、それをあえて止める必要もないのかなという印象を持った。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
カルシウム拮抗薬は胃食道逆流症状に影響しますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、カルシウム拮抗薬と胃食道逆流症状の関連についてです。
継続的にアムロジピンを飲まれている患者様が、先日の投薬時に「最近胃酸が上がってくるような感じがある」とお話しされていました。
一般的に、カルシウム拮抗薬は血管平滑筋だけでなく、胃酸の逆流を防いでくれている下部食道括約筋(LES:平滑筋の一種)も弛緩させると言われています。すると、LES圧が低下し、胃酸の逆流が起こりやすくなります。
この事を踏まえ、論文を検索してみましたが、なかなかそれっぽい論文が見つけられませんでした。
ところが、いつも勉強させて頂いている先生がブログで、数日前に取り上げて下さっていたので(ありがたや~)、めちゃくちゃ便乗して読んでみました。
参考文献 Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17298478
PMID:17298478
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
論文のPECO
P:高血圧治療にカルシウム拮抗薬を服用していて、虚血性心疾患や硝酸薬使用歴の無い患者
E:カルシウム拮抗薬服用前
C:カルシウム拮抗薬服用後
O:胃食道逆流症
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
研究対象集団の代表性
→西オーストラリアの15の薬局(院内1件、市中薬局14件)の患者が対象なので、一般化は難しいと思われる
調節した交絡因子は何か?
→年齢、性別、併存疾患、投与量、併用薬
結果
消化器症状の発現
・被験者371名のうち、241名は過去に消化器症状が無かった。そのうち85名(35.3%)でカルシウム拮抗薬治療後に消化器症状の発現が認められた。
ニフェジピン 36.5% p=0.043
アムロジピン 35.8% p=0.005
フェロジピン 32.0% p=0.118
ベラパミル 39.1% p=0.001
ジルチアゼム 30.7% p=0.107
消化器症状の悪化
・被験者のうち130名はカルシウム拮抗薬投与前から消化器症状があり。そのうち59名(45.4%)で症状の悪化が見られた。
ニフェジピン 15/28件(53.6%) p<0.0001
アムロジピン 19/31件(61.3%) p<0.0001
フェロジピン 15/28件(53.6%) p<0.0001
ベラパミル 8/27件(29.6%) p<0.0160
ジルチアゼム 2/16件(12.5%) p<0.5000
ジルチアゼムと比較した症状悪化のオッズ比
ニフェジピン OR=4.03(95%CI:1.10~14.80)
アムロジピン OR=4.22(95%CI:1.13~15.70)
フェロジピン OR=3.58(95%CI:0.98~13.12)
ベラパミル OR=1.80(95%CI:0.49~6.67)
感想
カルシウム拮抗薬により、胃食道逆流症の発症や症状悪化は増加傾向にあるという結果が示されている。1つの後ろ向きコホート研究の結果ではあるが、カルシウム拮抗薬服用と胃食道逆流症の間に多少の関連はあるのかもしれない。
この結果を眺めると、何となくアムロジピンやニフェジピンなどのジヒドロピリジン系の方が、非ジヒドロピリジン系のベラパミル(フェニルアルキルアミン系)や、ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)より症状悪化は多いような感じがするが、実際のところは分からない。
カルシウム拮抗薬による治療開始前には症状が無かったのに、カルシウム拮抗薬による治療開始後まもなくの症状発現が見られた、また、以前から症状はあったが、カルシウム拮抗薬による治療開始後に症状の悪化が見られた場合は、カルシウム拮抗薬が関与している可能性も疑って対処する必要がありそうである。
個人的には、この症状がカルシウム拮抗薬開始直後なのか、長期に服用し続けた時点なのか、どの時点で現れやすいのかという点についても気になる。
また、もう少しさがしてみると以下のような論文もありました。
Influence of calcium channel blockers in patients with gastrointestinal disease in Japanese community pharmacies.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21395634
PMID:21395634
こちらは、長崎県の調剤薬局5店舗で行われた後ろ向きコホート研究です。
胃腸症状の悪化を、胃酸分泌抑制薬の変更をもとに評価しているようです。
胃酸分泌抑制薬の変更は、カルシウム拮抗薬処方群:53/260件、コントロール群:13/155件で生じたようで、ハザード比=2.22(95%CI:1.25~4.26)という結果だそうです。
アブストラクトしか読めず、詳細は分かりません。H2ブロッカーからPPIの変更も、PPIからH2ブロッカーの変更も胃酸分泌薬の変更という事になるので、胃酸分泌薬変更が症状の悪化とは一概には言えないのではないかとも思いました。それでも、カルシウム拮抗薬と胃食道症状との間に何らかの関連がある事を裏付けるデータの一つにはなるかもしれません。
なかなか、関連する論文がなかなか見つけられずでしたので、他にご存知の方がいらしたら、ぜひご教授頂ければ嬉しいです。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
エスゾピクロンで睡眠時間はどれぐらい改善できますか?
ご訪問ありがとうございます。
ここ最近、私の勤務する薬局で触る事がやや多くなってきた印象である、エスゾピクロンの効果について調べてみました。
参考文献 A 12-week, randomized, double-blind, placebo-controlled study evaluating the effect of eszopiclone 2 mg on sleep/wake function in older adults with primary and comorbid insomnia.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=20175406
PMID:20175406
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:65~85歳で、総睡眠時間(TST)≦6時間が週3回以上かつ、中途覚醒時間(WASO)≧45分が週3回以上の不眠症患者。そのうちMMSE≧28のもの。
E:エスゾピクロン2mg→194名
C:プラセボ→194名
O:(Primary)ベースラインから12週間後までの主観的総睡眠時間(TST)の変化
(Secondary)睡眠潜時(LS)、中途覚醒時間(WASO)
※除外基準
→睡眠時無呼吸やレストレスレッグズ症候群、周期性四肢運動異常症、医学的・精神医学的に睡眠に影響を及ぼす状況(慢性疼痛、前立腺肥大症など)、医学的に不安定な状態や慢性疾患、心電図異常、薬物代謝に影響する状態、過去にゾピクロン・エスゾピクロンの臨床試験に参加した者、薬物・アルコール依存症
一次アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
→FASが用いられているよう
サンプルサイズ
→300名(パワー90%、α=5%)
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率74%(やや脱落が多い?)
結果
【ベースライン】
・平均年齢 エスゾピクロン群:71.6歳 プラセボ群:72.4歳
・総睡眠時間(TST) エスゾピクロン群:297.86分 プラセボ群:294.03分
・睡眠潜時(SL) エスゾピクロン群:75.68分 プラセボ群:82.17分
・中途覚醒時間(WASO) エスゾピクロン群:92.66分 プラセボ群:90.86分
Primary outcome
・総睡眠時間(TST)の平均
エスゾピクロン群:360.08分(ベースラインからの変化:63.24分) p<0.0001
Secondary outcome
・睡眠潜時(SL)
エスゾピクロン群:-24.62分 プラセボ群:-19.92分 p<0.0001
・中途覚醒時間(WASO)
エスゾピクロン群:-36.4分 プラセボ群:-14.8分 p<0.0001
有害事象
・頭痛 エスゾピクロン群:13.9% vs プラセボ群:12.4%
・不快な味 エスゾピクロン群:12.4% vs プラセボ群:1.5%
・めまい エスゾピクロン群:4.1% vs プラセボ群:1.5%
・転倒 エスゾピクロン群:4.1% vs プラセボ群:1.5%
感想
プラセボ群におけるTSTの具体的な記載が見つけられなかったが、Figure2より、TSTは約30~40分程度の差がプラセボ群とエスゾピクロン群の間にありそうである。
また、エスゾピクロン群では、ベースラインの総睡眠時間(TST)が297.86分、投与後は360.08分とおよそ60分程度の総睡眠時間延長がみられている。
Secondary outcomeではあるが、睡眠潜時(SL)や中途覚醒時間(WASO)も、プラセボとの比較でやや改善傾向という結果である。
あくまで、実臨床ではプラセボとの比較ではなく服用するかしないかの比較であり、結果はプラセボ効果+実薬の効果として現れてくると予測されるため、睡眠時間の確保という点ではエスゾピクロンは侮れないのかもしれない。
本研究は二重盲検をされているが、エスゾピクロンはゾピクロン同様に、翌朝の口の不快な味が問題になる事がある。有害事象としても、明らかにプラセボ群(1.5%)よりエスゾピクロン群(12.4%)で多くなっている。私もそのような訴えを患者様から聞く事は度々ある印象である。なので、もしかすると味でブラインドが見破られる可能性は無いのかな?という疑問はある。
非ベンゾジアゼピン系は安全と言われることが多いが、転倒リスクへも影響はありそうなので、特に高齢者ではこの点も重視してリスクとベネフィットのバランスを考えなければならない。エスゾピクロンには多少なりの睡眠改善効果はあるのかもしれないが、あくまでも不眠によりものすごく困っているという患者の訴えが強くないのであれば、高齢者に積極的に使わない方がいいのかもしれない。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
スボレキサントの安全性
ご訪問ありがとうございます。
前回の投稿から少し、間が空いてしまいましたが更新を再開しようと思います。
今回は、アブストしか読めないですがスボレキサントの有害事象についてです。
参考文献 Safety and efficacy of suvorexant during 1-year treatment of insomnia with subsequent abrupt treatment discontinuation: a phase 3 randomised, double-blind, placebo-controlled trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24680372
PMID:24680372
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:18歳以上の特発性不眠症患者
E:スボレキサント(65歳未満:40mg、65歳以上:30mg)
C:プラセボ
O:(Primary) 安全性、忍容性
(Secondary)1か月後の主観的総睡眠時間(sTST)、1か月後の入眠までの時間(sTSO)
一次アウトカムは明確か?
→Primary outcomeは不明確な気がする
真のアウトカムか?
→真のアウトカムと考えられる
盲検化されているか?
→二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
→記載なし
結果
・有害事象
E群:362/522件(69%)vs C群:164/258件(64%)
・重篤な有害事象
E群:27/522件(5%)vs C群:17/258件(7%)
・頻度の高かった有害事象
傾眠
E群:69/522件(13%)vs C群:7/258件(3%)
(有効性)
sTST
E群:38.7分 vs C群:16.0分
差=22.7分(95%CI:16.4~29.0)p<0.0001
sTSO
E群:-18.0分 vs C群:-8.4分
差=-9.5分(95%CI:-14.6~-4.5)p=0.0002
感想
アブストしか読めず、Primary outcomeが不明確な印象だったが、傾眠についてはプラセボとの比較で頻度が高くなっている。国内の用量より多い30~40mgを対象にしているが、昼間の運転や集中を要する仕事を行う方では、注意力が散漫になる可能性はあり、その点は注意が必要と感じた。
Secondary outcomeではあるが、総睡眠時間と睡眠潜時はプラセボとの比較でわずかに改善しているようである。ただ、このような薬は「プラセボ効果+実薬の効果」で現れてくるように思うので、総睡眠時間の38.7分の改善、睡眠潜時の18.0分の改善というのは侮れないかもしれない。あくまでもSecondary outcomeだが…。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
高血圧の高齢者では、オルメサルタンに併用するならCCBと利尿剤のどちらがいいですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、オルメサルタンと併用する薬剤としてCCB(カルシウムチャネルブロッカー)を用いた場合と、利尿剤を用いた場合で心血管イベントの発生に違いがあるかを比較した研究です。
参考文献 Combinations of olmesartan and a calcium channel blocker or a diuretic in elderly hypertensive patients: a randomized, controlled trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=24999799
PMID:24999799
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:65~85歳の日本人のうち、降圧療法を受けている場合は収縮期血圧>140mmHgかつ/または拡張期血圧>90mmHg、降圧療法を受けていない場合は、収縮期血圧>160mmHg以上かつ/または拡張期血圧>100mmHg。
E:オルメサルタン+CCB
C:オルメサルタン+利尿剤
O:(Primary) 致死性・非致死性心血管イベント:突然死、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血、TIAの新規発症または再発、冠動脈再建術)、狭心症または心不全による入院、腎臓イベント(血清クレアチニン倍増、血清クレアチニン≧2.0mg/100mL、末期腎障害)の複合アウトカム
※オルメサルタン:5~40mg/day
CCB:アムロジピン2.5 or 5mg/day アゼルニジピン 8 or 16mg/day
利尿剤:トリクロルメチアジド <1mg/day ヒドロクロロチアジド <12.5mg/day
インダパミド <1mg/day
※目標血圧は両群共に収縮期血圧<140mmHg、拡張期血圧<90mmHg。最大用量でもこれを満たさない場合は、その他の降圧薬(βブロッカー、αブロッカー、ACE-I)が追加された。
一次アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→オープンラベル(PROBE法)
ITT解析を行われているか?
→ITT解析が行われている
サンプルサイズ
→各群2000名(パワー80%、α=5%)
追跡期間
→中央値3.3年
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率97.7%
結果
平均年齢
73.6歳
血圧変化
オルメサルタン+CCB:158.0±12.7mmHg/87.1±10.8mmHg
→ 132.9±12.6mmHg/73.2±9.8mmHg
オルメサルタン+利尿剤:158.0±12.5mmHg/86.9±10.8mmHg
→ 132.9±13.6mmHg/73.5±9.8mmHg
Primary outcome
E群:116/2568件(4.5%)vs C群:135/2573件(5.3%)
HR=0.83(95%CI:0.65~1.07) p=0.16
有害事象
有害事象による脱落
E群:77/2568名(3.0%) C群:131/2573名(5.1%) p<0.001
有害事象の発生
E群:211/2568名(8.2%) C群:253/2573名(9.8%) p=0.046
悪性腫瘍
E群:2.5% C群:3.1% p=0.17
胃腸障害
E群:1.1% C群:1.1% p=0.79
糖尿病の新規発症
E群:10/2568件(0.4%) C群:15/2573名(0.6%) p=0.30
E群:2.6% vs C群:6.5%
感想
オルメサルタンにCCBを併用する場合と、利尿剤を併用する場合でPrimary outcomeの発生に大きな違いは見られなかったという結果。Primary outcomeは非常に多くにイベントの複合アウトカムであるが、個々のイベントについても、有意差の見られているものは無い。
PROBE法を使われており、しかも入院というソフトエンドポイントまで含まれているが、それでも大きな差が見られていない。イベント発生を抑えるという意味では、CCBを併用しても利尿剤を併用しても大差はないのかもしれない。
有害事象に関して、この論文では転倒リスクなどの結果は出てきていないが、高尿酸血症は利尿剤を併用した方が多く発生するという結果である。これは、チアジド系利尿剤により近医尿細管からの尿酸の再吸収が促進、また遠位尿細管からの尿酸分泌抑制によるものと考えられている。
普段、利尿剤と高尿酸血症についてはあまり気にしてはいなかったが、検査値を見ていく上では着目しておきたい点であると感じている。特に、もともと高尿酸血症治療薬を併用しているような場合は注意しておきたい。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
心不全のある高齢者はロスバスタチンを飲んだ方がいいですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、NYHAⅡ~Ⅳ度の心不全がある60歳以上の高齢者が、ロスバスタチンを服用した場合に、心血管死亡や非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中が減らせるかを検討した研究です。
参考文献 Rosuvastatin in older patients with systolic heart failure.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17984166
PMID:17984166
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:60歳以上で駆出率<40%のNYHA分類Ⅱ~Ⅳ度の虚血性の収縮期心不全患者5011名
E:ロスバスタチン10mg/日→2514名
C:プラセボ→2497名
O:(Primary) 心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム
※除外基準
過去のスタチンによるミオパチー・過敏症既往、非代償性心不全、変力療法を要する心不全、6か月以内の心筋梗塞、3カ月以内の不安定狭心症または脳卒中、3カ月以内のPCI・CABA・除細動器の植え込み・ペースメーカー植え込み、過去または今後予定がある心臓移植、コントロール不良の原発性弁膜症または人工弁の機能不全、肥大性心筋症、急性心内膜炎または急性心筋炎、心臓疾患、アミロイドーシスのような全身性疾患、急性または慢性肝疾患、アラニンアミノトランスフェラーゼまたはチロトロピンが基準値上限の2倍以上、血清クレアチニン>2.5mg/dL、慢性の筋肉疾患または正常範囲上限の2.5倍のクレアチンキナーゼ、シクロスポリンによる治療歴、寿命を大幅に短縮したり、プロトコル遵守を制限する条件
一次アウトカムは明確か?
→複合アウトカムなので明確と言える
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
4950名(パワー90%、α=5%)
追跡期間
→中央値32.8カ月
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率に関する記述が見つけられなかった・・・。
結果
・平均年齢:およそ73歳
・LDLコレステロール
ロスバスタチン群:ベースライン→137mg/dL 3か月後→76mg/dL
プラセボ群:ベースライン→136mg/dL 3か月後→138mg/dL
ロスバスタチン群:ベースライン→48mg/dL 3か月後→50mg/dL
プラセボ群:ベースライン→47mg/dL 3か月後→47mg/dL
Primary outcome(心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカム)
E群:692/2514件 vs C群:732/2497件
HR=0.92(95%CI:0.83~1.02) p=0.12
感想
60歳以上の高齢者のロスバスタチン服用の有無で、心血管死亡、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中の複合アウトカムは減らす事が出来なかったという結果。
ロスバスタチン服用で確かにLDLコレステロールの低下は見られているが、この事と患者の予後に影響を与える心血管死亡等を減らす事が出来るかは、やはり乖離があるような気がする。
今回の患者のベースライン時点におけるLDLコレステロール値は、平均で約136~137mg/dLと、ものすごく高いという印象ではないため、この事からもアウトカムに差が出にくいという事もあるのかもしれないが。
少なくともLDLコレステロール値が突出して高いわけではない、70歳を超えた心不全の高齢者が、ロスバスタチン服用によって得られるメリットはあまり大きくないのかもしれない。現時点では、服用しないという選択肢もアリかと感じているが、関連論文にも当たってみる必要がある。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
高齢者のゾルピデム服用と骨折リスクに関連がありますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、いわゆるZ-drugの1つであるゾルピデムと、骨折リスクに関する論文を読んでみました。
参考文献 Zolpidem use and risk of fracture in elderly insomnia patients.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=22880153
PMID:22880153
研究デザイン:ケースクロスオーバー研究
論文のPECO
P:不眠症の65歳以上の高齢者のうち骨折をした患者
E:ゾルピデム服用あり
C:ゾルピデム服用無し
O:骨折発生のオッズ比
※骨折が発生した日の前日をHazard period、その5・10・15・20週前の1日間をそれぞれControl periodとした(Hazard period とControl period を1:4で対応させている)。ゾルピデムの服用をHazard periodとControl periodで比較し、骨折の発生とゾルピデム服用の関連性をオッズ比と95%信頼区間で評価。
研究対象集団の代表性
→韓国の健康保険審査・評価サービスのデータベースが用いられており、大きな問題は無さそう
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
調節した交絡因子は何か?
→同じ患者から、Hazard periodとControl periodの間のゾルピデム服用を比較しているので、年齢、性別、生活習慣、認知機能レベル、可動性、社会経済状況、住居環境、併存疾患などの時間に左右されない交絡因子は、あらためて調整する必要が無い研究デザイン。時間に左右される、併用薬(抗精神病薬、カルシウムチャネルブロッカー、抗コリン薬、抗てんかん薬、鎮痛薬)については調整されている。
結果
骨折のオッズ比
(非ベンゾジアゼピン系)
★ゾルピデム Hazard:236/1508 vs Control:722/6032
調整オッズ比=1.72(95%CI:1.37~2.16)
(ベンゾジアゼピン系)
★トリアゾラム Hazard:364/1508 vs Control:1394/6032
調整オッズ比=1.12(95%CI:0.83~1.21)
★ロラゼパム Hazard:146/1508 vs Control:550/6032
調整オッズ比=1.04(95%CI:0.82~1.33)
★フルラゼパム Hazard:23/1508 vs Control:101/6032
調整オッズ比=1.06(95%CI:0.79~1.44)
★フルニトラゼパム Hazard:25/1508 vs Control:108/6032
調整オッズ比=0.78(95%CI:0.38~1.58)
★ミダゾラム Hazard:3/1508 vs Control:15/6032
調整オッズ比=0.60(95%CI:0.12~2.92)
★ブロチゾラム Hazard:7/1508 vs Control:27/6032
調整オッズ比=0.97(95%CI:0.31~2.97)
※性別ごとの骨折オッズ比
男性 OR=1.74(95%CI:1.09~2.77) 女性 OR=1.87(95%CI:1.45~2.41)
★ベンゾジアゼピン系
男性 OR=1.52(95%CI:0.97~2.32) 女性 OR=1.09(95%CI:0.80~1.49)
感想
65歳以上の高齢者では、ゾルピデム服用と骨折の間に関連がありそうな結果である。個人的に、非ベンゾジアゼピン系は筋弛緩作用が少なく、ゾルピデムは比較的安全な薬剤という位置づけとして認識していた。しかし、少なくともこの結果から、ゾルピデム服用で骨折リスクは上昇しないとは言い切れない印象。
ゾルピデムは、CYP3A4やCYP2C9、CYP1A2などにより代謝される。CYP3A4やCYP1A2などは加齢により活性が低下すると言われており、ゾルピデムは高齢者においてAUCが大きく上昇することが知られている(山本雄一郎先生著 実践薬学@日経BP社を参照)。
このことも関係しているのかもしれないが、高齢者ではゾルピデム服用中の転倒に注意する必要があるだろうし、必要最低限の服用にとどめた方が無難なのかもしれないと感じた。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。