血糖値をしっかりコントロールしたら10年後はどうですか?(UKPDS80)

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今回は糖尿病の有名な論文である、UKPDS80を読んでみました。

 

参考文献  10-year follow-up of intensive glucose control in type 2 diabetes.

リンク   https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=18784090

 

PMID:18784090

 

研究デザイン:ランダム化比較試験

 

論文のPECO

P:25~65歳で食後血漿グルコース108~270mg/dLの新規に2型糖尿病と診断された患者のうちUKPDSに参加した者

E:標準治療(食事制限)の治療終了10年後

C:厳格治療(SU薬、インスリン、標準体重の120%以上の患者ではメトホルミン)の治療終了10年後

O:7項目

①糖尿病関連エンドポイント(突然死、高血糖または低血糖による死亡、致死性・非致死性心筋梗塞狭心症心不全、致死性・非致死性脳卒中、腎不全、切断、硝子体出血、網膜光凝固術、片目失明、白内障摘出術)

②糖尿病関連死亡(突然死、心筋梗塞脳卒中・末梢血管疾患・腎疾患・高血糖低血糖による死亡)

③総死亡

心筋梗塞(突然死、致死性・非致死性心筋梗塞

脳卒中(致死性・非致死性脳卒中

⑥末梢血管疾患(指の切断、末梢血管疾患による死亡)

⑦微小血管疾患(硝子体出血、網膜光凝固術、腎不全)

 

※UKPDS研究終了後、3277名が5年間は1年に1回UKPDSの病院を受診するように指示された。ただし、UKPDSで割りつけられた治療は維持されなかった。6~10年間は年1回の質問票に回答してもらった。

 

ランダム化されているか?

→ランダム化されている

 

一次アウトカムは明確か?

→アウトカムとして7つ挙げられており、多く設定されているためどれか偶然に有意差が出てしまうのではないかという懸念はある。やや注意が必要かもしれない。

 

真のアウトカムか?

→真のアウトカム

 

盲検化されているか?

→盲検化は不可能かと思われる。PROBE法?

 

均等に割り付けられているか

→均等に2群に割り付けられていると思われる

 

ITT解析を行われているか?

→ITT解析されている

 

サンプルサイズ

→記載なし

 

脱落率は結果を覆すほどあるか?

→Figure1の文章の下から1行目にOverall, 3.5% of patients were lost to follow-upの記載があるため、追跡率は96.5%

 

追跡期間

→インスリン、SU薬群:8.5年 メトホルミン群:8.8年

 

結果

【ベースライン】

平均年齢

SU薬 標準治療:63±9歳 厳格治療:63±9歳

メトホルミン 標準治療:63±9歳 厳格治療:64±9歳

※理想体重の120%以上の患者はメトホルミン服用

 

HbA1c

SU薬 標準治療:8.5% 厳格治療:7.9%

メトホルミン 標準治療:8.9% 厳格治療:8.4%

 

BMI

SU薬 標準治療:28.7±5.6 厳格治療:29.3±5.5

メトホルミン 標準治療:32.2±5.7 厳格治療:31.7±5.4

 

※追跡開始1年後ぐらいで厳格治療群と標準治療群のHbA1cの値は同等になっている。(Figure2より)

 

【アウトカム】

①糖尿病関連エンドポイント

・インスリン/SU:48.1/1000人年 vs  標準治療群:52.2/1000人年

リスク比=0.91(95%CI:0.83~0.99)  p=0.04

・メトホルミン:45.7/1000人年 vs 標準治療群:53.9/1000人年

リスク比=0.79(95%CI:0.66~0.95)  p=0.01

 

②糖尿病関連死亡

・インスリン/SU:14.5/1000人年 vs  標準治療群:17.0/1000人年

リスク比=0.83(95%CI:0.73~0.96) p=0.01

・メトホルミン:14.0/1000人年 vs 標準治療群:18.7/1000人年

リスク比=0.70(95%CI:0.53~0.92) p=0.01

 

③総死亡

・インスリン/SU:26.8/1000人年 vs  標準治療群:30.3/1000人年

リスク比=0.87(95%CI:0.79~0.96) p=0.007

・メトホルミン:25.9/1000人年 vs 標準治療群:33.1/1000人年

リスク比=0.73(95%CI:0.59~0.89) p=0.002

 

心筋梗塞

・インスリン/SU:16.8/1000人年 vs  標準治療群:19.6/1000人年

リスク比=0.85(95%CI:0.74~0.97) p=0.01

・メトホルミン:14.8/1000人年 vs 標準治療群:21.1/1000人年

リスク比=0.67(95%CI:0.51~0.89) p=0.005

 

脳卒中

・インスリン/SU:6.3/1000人年 vs  標準治療群:6.9/1000人年

リスク比=0.91(95%CI:0.73~1.13) p=0.39

・メトホルミン:6.0/1000人年 vs 標準治療群:6.8/1000人年

リスク比=0.80(95%CI:0.50~1.27) p=0.35

 

⑥末梢血管疾患

・インスリン/SU:2.0/1000人年 vs  標準治療群:2.4/1000人年

リスク比=0.82(95%CI:0.56~1.19) p=0.29

・メトホルミン:2.3/1000人年 vs 標準治療群:3.4/1000人年

リスク比=0.63(95%CI:0.32~1.27) p=0.19

 

⑦微小血管疾患

・インスリン/SU:11.0/1000人年 vs  標準治療群:14.2/1000人年

リスク比=0.76(95%CI:0.64~0.89) p=0.001

・メトホルミン:12.4/1000人年 vs 標準治療群:13.4/1000人年

リスク比=0.84(95%CI:0.60~1.17) p=0.31

 

感想

 もとのUKPDS(33,34)終了後、追跡期間1年ほどで厳格治療群と標準治療群のHbA1cの値は同等になっている。それにも関わらず糖尿病関連死亡や総死亡、心筋梗塞は有意に厳格治療群で少ないという結果。また、脳卒中や末梢血管疾患は有意差こそ出ていないが減少傾向がみられる。

 この結果から、糖尿病は初期段階の治療が割と重要なのかなという印象である。逆に言うと、初期の治療をしっかりやれば、その後はそこまで厳格な治療でなくてもいいということなのだろうか。

 個人的には、DPP-4阻害薬を用いて初期治療を行った場合の結果というのも気になる所である。

 

今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。