2型糖尿病患者に対する低用量アスピリンの一次予防効果は?(JPAD)
ご訪問ありがとうございます。
実は、本日でこのブログも2年目に突入します。
この1年、いろいろありました。いろんな先生方の支えもあり、居酒屋抄読会という企画も5回ほど開催させていただきました。
飽き症の自分が1年も続けることが出来るとは、開始時点では思いもしていませんでしたが、ひとえに支えて下さっている皆様のおかげであります。感謝申し上げます。
2年目の1発目は、2型糖尿病患者に対する低用量アスピリンの一次予防効果を検討した論文(JPAD)です。
参考文献 Low-dose aspirin for primary prevention of atherosclerotic events in patients with type 2 diabetes: a randomized controlled trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=18997198
PMID:18997198
研究デザイン:ランダム化比較試験
論文のPECO
P:30~85歳で、動脈硬化性疾患の病歴の無い2型糖尿病患者2536名
E:低用量アスピリン(81または/100mg/日)
C:アスピリン無し
O:(Primary) 動脈硬化性疾患(突然死、冠動脈性・脳血管性・大動脈性の死亡、非致死性急性心筋梗塞、不安定狭心症、狭心症の新規発症、非致死性虚血性・出血性脳卒中、TIA、非致死性大動脈・末梢血管疾患:動脈硬化症、大動脈解離、腸間膜動脈血栓)の複合エンドポイント
除外基準
→心電図におけるST低下、ST上昇、異常Q波、冠動脈心疾患の既往、脳血管疾患の既往、治療を必要する動脈硬化性疾患の既往、心房細動、妊婦、アスピリン・チクロピジン・シロスタゾール・ジピリダモール・トラピジル・ワルファリン・アルガトロバンの服用、重度の胃・十二指腸潰瘍既往、重篤な肝・腎疾患、アスピリンアレルギー
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
一次アウトカムは明確か?
→複合アウトカムなので明確と思われる
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→PROBE法が用いられている
均等に割り付けられているか
→均等に2群に割り付けられていると思われる
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
→2450名(パワー95%、α=5%)
追跡率は十分か?
→追跡率=92.4%
追跡期間
→中央値4.37年
結果
【ベースライン】
平均年齢:E群:65歳 プラセボ群:64歳
動脈硬化性疾患の複合アウトカム(Primary outcome)
E群:68/1262件(5.4%)13.6/1000人年vs C群:86/1277件(6.7%)17.0/1000人年
HR=0.80(95%CI:0.58~1.10) p=0.16
冠動脈・脳血管性死亡
E群:1/1262件(0.08%)0.2/1000人年vs C群:10/1277件(0.8%)2.0/1000人年
HR=0.10(95%CI:0.01~0.79) p=0.0037
有害事象(Table3)
消化管出血、その他出血、消化管潰瘍などいずれもアスピリン群で多い
感想
Primary outcomeに関しては、アスピリン群と非アスピリン群でHR=0.80と減少傾向はあるが有意差はないという結果。ベースラインの平均年齢は64~65歳で、そこからの4年ほどの追跡なので、もう少し長期間の追跡の結果も気になる所ではある。
冠動脈・脳血管性死亡はアスピリン群で有意に減らす事が出来たという結果であるが、あくまでこれはSecondary outcomeであり、さらに発生数がそもそも多くないので、死亡を減らす事が出来るとは言い切れないと思う。
出血や消化器症状などの有害事象は、アスピリン群で明らかに多い印象であるが、アスピリン服用群ではPPIを併用していた割合はどうだったのか気にはなる・・・。
有害事象のリスクと得られるベネフィットで考えると、過去に動脈硬化性疾患の既往の無い2型糖尿病患者のうち、少なくとも65歳未満の患者では一次予防効果は大きくは期待できないかもしれない。使うにしても、これまで私が読んできた文献の結果から、PPIの併用はした方がいいかなという印象を持っている。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
そして、2年目も引き続きどうぞよろしくお願い致します。
日本人ではスタチンにEPAを併用した方がいいですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、高コレステロール血症の日本人患者に対して、スタチンにEPAを併用する事で心血管イベントに変化はあるかをみた研究(JELIS研究)の論文です。
参考文献 Effects of eicosapentaenoic acid on major coronary events in hypercholesterolaemic patients (JELIS): a randomised open-label, blinded endpoint analysis.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17398308
PMID:17398308
研究デザイン:ランダム化比較試験
論文のPECO
P:総コレステロール>6.5mmoL/L(約250mg/dL)の日本人患者18645名
E:スタチンにEPA1800mg/日を併用→9326名
C:スタチン単独→9319名
O:(Primary) 主要冠血管イベント(心臓突然死、致死性・非致死性心筋梗塞、不安定狭心症、血管形成術、ステント挿入、冠動脈バイパス術)
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
一次アウトカムは明確か?
→複合アウトカムのようなので明確といえる
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→PROBE法が用いられている
均等に割り付けられているか
→均等に2群に割り付けられていると思われる
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
→パワー80%、α=5%で、具体的なサンプル数の設定数に関する記載は見つからず
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率=98.9%
追跡期間
→平均4.6年
結果
【ベースライン】
平均年齢:E群:61歳 C群:61歳
併用スタチン:両群ともにプラバスタチンが60%、シンバスタチンが36~37%
主要心血管イベント(Primary outcome)
E群:262/9326件(2.8%)vs C群:324/9319件(3.5%)
HR=0.81(95%CI:0.69~0.95) p=0.011 NNT=148名
サブグループ解析
①primary prevention(過去に心血管イベント発生が無い患者のみ)
主要心血管イベント
E群:1.4% vs C群:1.7%
HR=0.82(95%CI:0.63~1.06) p=0.132
②secondary prevention(過去に心血管イベント発生がある患者のみ)
主要心血管イベント
E群:8.7% vs C群:10.7%
HR=0.81(95%CI:0.66~1.00) p=0.048
感想
Primary outcomeである主要心血管イベントは、HR=0.81という事でEPAを併用した方が19%ほど減らす事が出来るという結果。ただし平均4.6年の追跡でNNT=148と、服用しなくてもあまり大きな影響は無いのかもしれない。
この研究は、二重盲検ではなくPROBE法が用いられており、その上で血管形成術、ステント挿入、冠動脈バイパス術などのソフトエンドポイントがアウトカムに含まれているため、解釈には注意が必要であり、結果は割り引いて考える必要がある。
複合アウトカムに含まれる個々の要素としては、いずれもEPA併用でリスクは低下傾向にはあるが、有意差が出ているのは不安定狭心症のみ(HR=0.78 95%CI:0.62~0.95)で、これもNNT=334と大きなインパクトは無い。
有害事象としては、吐き気などの消化器症状や、出血がやや増える可能性があるようである。
EPA製剤は、カプセルも大きく1度に2Capを1日3回の服用が必要、粒状カプセルも飲みにくいと訴える患者さんは結構多いと感じている。その飲みにくさを上回るだけのベネフィットを得られるかは疑問が残るという印象。海外の物などで同様の研究の論文も読んでみる必要がある。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
リバーロキサバンとダビガトランで出血リスクに違いはありますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、DOAC(Direct oral anticoagulants)であるリバーロキサバンとダビガトランの出血リスクについて検討されたSR&MAの論文です。
参考文献 Bleeding outcomes associated with rivaroxaban and dabigatran in patients treated for atrial fibrillation: a systematic review and meta-analysis.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28056795
PMID:28056795
研究デザイン:システマティックレビュー&メタ分析
論文のPECO
P:非弁膜症性心房細動患者
E:リバーロキサバン→1581名
C:ダビガトラン→3314名
O:(Primary)出血イベント、頭蓋内出血、消化管出血
(Secondary)脳卒中/全身性塞栓症/TIA、静脈血栓塞栓症、死亡
一次アウトカムは明確か?
→明確
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
4つのバイアス
1、評価者バイアス
5名の評価者が独立してデータ抽出
評価者バイアスはさほど問題なさそう
2、出版バイアス
情報元:EMBASE、Medline、Cochrane Central Registry of Controlled Trials
・英語で書かれたもののみ
・参考文献についても検索している
・ファンネルプロットでは、個人的にはやや左下のデータが欠損しているような印象(これぐらいは問題ないような気もするが・・・)
出版バイアスは大きな問題はなさそうだが、個人的には少し慎重に評価したいと感じた
3、元論文バイアス
→5つの観察研究のみを統合している(観察研究なのでRisk of biasの評価はしていない)
元論文バイアスもさほど問題なさそう
4、異質性バイアス
→Primary outcomeのいずれもI2=0%なので異質性は低いと考えられる
結果
総出血イベント
リバーロキサバン:79/1578件 vs ダビガトラン:124/3311件
OR=1.28 (95%CI:0.95~1.72) I2=0% P=0.11
頭蓋内出血
リバーロキサバン:3/507件 vs ダビガトラン:4/1417件
OR=2.18 (95%CI:0.51~9.25) I2=0% P=0.29
消化管出血
リバーロキサバン:9/507件 vs ダビガトラン:17/1417件
OR=0.98 (95%CI:0.43~2.25) I2=0% P=0.97
リバーロキサバン:32/1581件 vs ダビガトラン:91/3314件
OR=0.81 (95%CI:0.53~1.23) I2=0% P=0.32
リバーロキサバン:7/695件 vs ダビガトラン:8/1593件
OR=2.06 (95%CI:0.73~5.82) I2=0% P=0.17
死亡
リバーロキサバン:45/730件 vs ダビガトラン:100/1627件
OR=1.42 (95%CI:0.99~2.06) I2=38% P=0.06
感想
総出血イベントは有意差こそ出ていないものの、ダビガトランと比較してリバーロキサバンでリスクが高くなる傾向にある。頭蓋内出血は、そもそもイベント発生数が少ないため何とも言えない印象であり、消化管出血は両群でほとんど差が無いという結果。
個人的には、ダビガトランの出血リスクはDOACの中でも高いという認識でいたが、実はリバーロキサバンは更に出血リスクが高い可能性がある事が示唆されており、リバーロキサバンが出血リスクの低いDOACという認識は改めなければならないと感じた。
実際、抗凝固薬の中で出血リスクがどのあたりに位置するのかを検討するためには、他のDOACやワルファリンとの比較に関する論文も探して読んでみる必要がある。
ところで、この2剤間では腎機能についても注意が必要な薬剤である。この辺りも加味する必要はあるであろう。リバーロキサバンの他、アピキサバン、エドキサバンはクレアチニンクリアランス<15mL/minで禁忌となるが、ダビガトランはクレアチニンクリアランス<30mL/minで禁忌とされている。ちなみに、肝消失型薬剤であるワルファリンも、重篤な腎障害患者においては禁忌となっている。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
心房細動患者に対するジゴキシンと死亡
ご訪問ありがとうございます。
前回の投稿時に、心不全と心房細動は分けて考えた方が良さそうと、日ごろから大変尊敬している先生に教えて頂きまして。そんなわけで、今回は心房細動患者に対するジゴキシンのSR&MAです。そもそも、私の勤めている薬局ではジゴキシンの処方例は非常に少ない印象ではありますが・・・。
他にも似たような研究がいくつかあるようですが、とりあえず1本読んでみました。
参考文献 Systematic review and meta-analysis of mortality and digoxin use in atrial fibrillation.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27064796
PMID:27064796
研究デザイン:システマティックレビュー&メタ分析
論文のPECO
P:心房細動(AF)の患者
E:ジゴキシン服用あり→111978名
C:ジゴキシン服用無し→389643名
O:(Primary)総死亡
(Secondary)心血管死亡
一次アウトカムは明確か?
→明確。
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
4つのバイアス
1、評価者バイアス
・2名の評価者が独立してデータ抽出
評価者バイアスはさほど問題なさそう
2、出版バイアス
情報元:MEDLINE、EMBASE、Google Scholar、CINAHL、Cochran central datebase
・言語制限なしに集めている
・関連する参考文献や未出版のデータも検索している
・Funnel plotを見た感じも、そこまで大きな問題はなさそう
出版バイアスはさほど問題なさそう
3、元論文バイアス
・RCTのほかに観察研究やPost hoc解析の結果も含まれている
複数の研究タイプが含まれているようなので、やや注意が必要
4、異質性バイアス
・Primary outcomeのI2=88%と異質性は高い。他の結果も異質性は高い。
結果
平均年齢:73.8歳
★総死亡
(全体) HR=1.27 (95%CI:1.19~1.36) I2=88% P<0.001
(心不全ありの患者) HR=1.21 (95%CI:1.12~1.30) I2=77% P=0.002
(心不全無しの患者) HR=1.47 (95%CI:1.25~1.73) I2=91% P<0.0001
※RCTのみの結果:HR=1.46 (95%CI:1.09~1.94) I2=82% P<0.0001
★心血管死亡
HR=1.21 (95%CI:1.12~1.30) I2=74% P<0.001
感想
心房細動の患者に対するジゴキシンは、総死亡を増やす可能性があるという結果である。RCT以外に観察研究も含まれているようで、また異質性も高いため注意は必要とは思うが、この結果は軽視できないものと思う。
ジゴキシンの効能・効果に「心房細動・心房粗動による頻脈」があるが、今回の結果を見ると、心房細動を持つ患者に対してジゴキシンをあまり安易に使うべきではないような印象を持った。心不全を併発している患者と併発していない患者でやや結果に差がある点も興味深い。
異質性が高いという事もあるので、今後このSRに組み入れられている元論文も読んでみようと思う。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
ジゴキシンで心不全患者の死亡は減らせますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、今更ながら、心不全患者に対するジゴキシンの影響に関する論文(DIG)を読んでみました。
参考文献 The effect of digoxin on mortality and morbidity in patients with heart failure.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9036306
PMID:9036306
研究デザイン:ランダム化比較試験
論文のPECO
P:正常洞調律で、左室駆出率<45%の心不全患者
E:ジゴキシン服用(3397名) ※中央値0.25mg/日
C:プラセボ服用(3403名)
O:(Primary) 死亡率
(Secondary)心血管死亡、心不全悪化による死亡、心不全悪化による入院、その他の理由による入院(ジゴキシン中毒など)
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
一次アウトカムは明確か?
→明確といえる
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→二重盲検されている
均等に割り付けられているか
→均等に2群に割り付けられていると思われる
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
→サンプルサイズに関する詳細の記載が見つけられず。
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率に関する記載が見当たらない
追跡期間
→平均37カ月
結果
【ベースライン】
平均年齢:ジゴキシン群:63.4±11.0歳 プラセボ群:63.5±10.8歳
左室駆出率:ジゴキシン群:28.6±8.9% プラセボ群:28.4±8.9%
総死亡(Primary outcome)
ジゴキシン群:1181/3397件(34.8%)vs プラセボ群:1194/3403件(35.1%)
RR=0.99(95%CI:0.91~1.07) p=0.80
心血管死亡
ジゴキシン群:1016/3397件(29.9%)vs プラセボ群:1004/3403件(29.5%)
RR=1.01(95%CI:0.93~1.10) p=0.78
心不全悪化による死亡
ジゴキシン群:394/3397件(11.6%)vs プラセボ群:449/3403件(13.2%)
RR=0.88(95%CI:0.77~1.01) p=0.06
心不全悪化による入院
ジゴキシン群:910/3397件(26.8%)vs プラセボ群:1180/3403件(34.7%)
RR=0.72(95%CI:0.66~0.79) p<0.001 (NNT=13)
ジギタリス中毒の疑いによる入院
ジゴキシン群:67/3397件(2.0%)vs プラセボ群:31/3403件(0.9%)
RR=2.17(95%CI:1.42~3.32) p<0.001
感想
Primary outcomeである総死亡は、ジゴキシン服用で減らなかったという結果。また、Secondary outcomeである、心血管死亡や心不全悪化による死亡も減らなかったという結果である。心不全悪化による死亡は、減少傾向ではあるが。
心不全悪化による入院は、有意に減らす事が出来たという結果だが、あくまでもSecondary outcomeであり、かつソフトエンドポイントであることから、やや結果を割り引いて考える必要はありそう。
ジギタリス中毒疑いは、プラセボ群でもなぜか発生しているが、やはりジゴキシン服用群で多いという結果であり、腎機能や併用薬などには注意が必要。調剤薬局においても、併用薬が増えた場合などでは次回来局時以降、ジギタリス中毒の初期症状(吐き気やめまい、視界がぼやける等)が出ていないかなどの確認が必要であると感じた。
左室駆出率が30%以下まで低下していると、効果が発揮されにくいのかと思ったが、左室駆出率>45%の患者を対象とした解析でも、死亡はRR=0.99(95%CI:0.76~1.28)という結果であまり期待は出来なさそうである。
左室駆出率>45%の心不全患者を対象とした論文も見てみた。
文献 Effects of digoxin on morbidity and mortality in diastolic heart failure: the ancillary digitalis investigation group trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16864724
PMID:16864724
患者の左室駆出率平均値
ジゴキシン群:55.5±8.1% プラセボ群:55.4±8.2%
結果
(追跡2年後)HR=0.71(95%CI:0.52~0.98) p=0.034
(全期間) HR=0.82(95%CI:0.63~1.07) p=0.136
こちらの論文ではPrimary outcomeを心不全による入院または心不全による死亡の複合エンドポイントと設定している。
結果、追跡2年後ではHR=0.71 p=0.034だったが、全体を通してだとHR=0.82 p=0.136であった。入院というソフトエンドポイントを含んでいることからも、やはり結果はやや割り引いて考える必要がありそう。
そして、不安定狭心症による入院が、ジゴキシン群で増加傾向(HR=1.37 95%CI:0.99~1.91)という結果が出ている点も追跡していきたいところ。
今後、関連する他の文献も探して読んでいこうと思う。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
イチョウ葉エキスは認知症予防に有効ですか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、ドラッグストアでもサプリメントとして購入できるイチョウ葉エキスの認知症予防効果についての論文です。
参考文献 Ginkgo biloba for prevention of dementia: a randomized controlled trial.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19017911
PMID:19017911
研究デザイン:ランダム化比較試験
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
論文のPECO
P:認知機能が正常(2587名)または軽度認知機能障害のある(482名)75歳以上の高齢者
E:イチョウ葉エキス120mg×2回/日(1545名)
C:プラセボ(1424名)
※除外基準
→もともと認知症の患者、ワルファリン服用中、認知症に対してコリンエステラーゼ阻害剤服用中、研究機関中にOTCのイチョウ葉エキス摂取を拒む患者、三環系抗うつ薬・抗精神病薬・顕著な抗精神作用または中枢性抗コリン作用を有する薬物による治療中(SSRIは対象外)、400IU/日以上のビタミンE摂取、出血性疾患の既往歴、1年以内のうつ病による入院または10年以内の電気痙攣療法、パーキンソン病既往歴または抗パーキンソン病薬服用、甲状腺検査異常、血清クレアチニン>2.0mg/dL、肝機能検査で標準値上限の2倍以上の数値、ベースラインのビタミンB12<210pg/mL、ヘマトクリット値<30%、血小板数<100×103/μL、平均余命<5年、イチョウ葉アレルギー
一次アウトカムは明確か?
→明確と言える
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→二重盲検されている
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている
サンプルサイズ
→3000名(パワー96% α=5%)
脱落率は結果を覆すほどあるか?
→追跡率=93.7%
追跡期間
→中央値6.1年
結果
・ベースラインの平均年齢:79.1歳
全認知症
①全患者
E群:3.27/100人年 vs C群:2.94/100人年
HR=1.12(95%CI:0.94~1.33) p=0.21
②ベースラインで認知機能正常の患者
E群:2.25/100人年 vs C群:2.16/100人年
HR=1.05(95%CI:0.84~1.30) p=0.67
③ベースラインで軽度認知機能障害があった患者(MCI)
E群:9.82/100人年 vs C群:8.68/100人年
HR=1.13(95%CI:0.85~1.50) p=0.39
①全患者
E群:3.04/100人年 vs C群:2.63/100人年
HR=1.16(95%CI:0.97~1.39) p=0.11
②ベースラインで認知機能正常の患者
E群:2.09/100人年 vs C群:1.86/100人年
HR=1.13(95%CI:0.90~1.42) p=0.30
③ベースラインで軽度認知機能障害があった患者(MCI)
E群:9.12/100人年 vs C群:8.28/100人年
HR=1.10(95%CI:0.83~1.47) p=0.56
有害事象
2群間で発生に大きな差のあるものは無さそう
感想
本研究の結果、イチョウ葉エキスを摂取した群では、プラセボを摂取した群より全認知症、アルツハイマー型認知症ともにやや増加傾向(ただし有意差は無し)という結果であった。
私の勉強不足により、この認知症の定義の妥当性がどれほどのものなのかが分からないし、イチョウ葉エキスの摂取が認知症を増やすという事を示唆しているわけではないと思う。対象患者のベースラインにおける平均年齢が79歳と高齢で、少なくともこのような高齢患者に対する認知症予防効果はあまり期待できないのかと感じた。
薬局店頭においても、相談に来られたお客様に対して積極的な摂取を勧める根拠となる結果ではない。
一方、有害事象に関しては、プラセボと比較して大きく発生が起こりやすいものも無さそうであり、お客様が積極的な購入の意志を持っておられる場合は、それをあえて止める必要もないのかなという印象を持った。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。
カルシウム拮抗薬は胃食道逆流症状に影響しますか?
ご訪問ありがとうございます。
今回は、カルシウム拮抗薬と胃食道逆流症状の関連についてです。
継続的にアムロジピンを飲まれている患者様が、先日の投薬時に「最近胃酸が上がってくるような感じがある」とお話しされていました。
一般的に、カルシウム拮抗薬は血管平滑筋だけでなく、胃酸の逆流を防いでくれている下部食道括約筋(LES:平滑筋の一種)も弛緩させると言われています。すると、LES圧が低下し、胃酸の逆流が起こりやすくなります。
この事を踏まえ、論文を検索してみましたが、なかなかそれっぽい論文が見つけられませんでした。
ところが、いつも勉強させて頂いている先生がブログで、数日前に取り上げて下さっていたので(ありがたや~)、めちゃくちゃ便乗して読んでみました。
参考文献 Do calcium antagonists contribute to gastro-oesophageal reflux disease and concomitant noncardiac chest pain?
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/?term=17298478
PMID:17298478
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
論文のPECO
P:高血圧治療にカルシウム拮抗薬を服用していて、虚血性心疾患や硝酸薬使用歴の無い患者
E:カルシウム拮抗薬服用前
C:カルシウム拮抗薬服用後
O:胃食道逆流症
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
研究対象集団の代表性
→西オーストラリアの15の薬局(院内1件、市中薬局14件)の患者が対象なので、一般化は難しいと思われる
調節した交絡因子は何か?
→年齢、性別、併存疾患、投与量、併用薬
結果
消化器症状の発現
・被験者371名のうち、241名は過去に消化器症状が無かった。そのうち85名(35.3%)でカルシウム拮抗薬治療後に消化器症状の発現が認められた。
ニフェジピン 36.5% p=0.043
アムロジピン 35.8% p=0.005
フェロジピン 32.0% p=0.118
ベラパミル 39.1% p=0.001
ジルチアゼム 30.7% p=0.107
消化器症状の悪化
・被験者のうち130名はカルシウム拮抗薬投与前から消化器症状があり。そのうち59名(45.4%)で症状の悪化が見られた。
ニフェジピン 15/28件(53.6%) p<0.0001
アムロジピン 19/31件(61.3%) p<0.0001
フェロジピン 15/28件(53.6%) p<0.0001
ベラパミル 8/27件(29.6%) p<0.0160
ジルチアゼム 2/16件(12.5%) p<0.5000
ジルチアゼムと比較した症状悪化のオッズ比
ニフェジピン OR=4.03(95%CI:1.10~14.80)
アムロジピン OR=4.22(95%CI:1.13~15.70)
フェロジピン OR=3.58(95%CI:0.98~13.12)
ベラパミル OR=1.80(95%CI:0.49~6.67)
感想
カルシウム拮抗薬により、胃食道逆流症の発症や症状悪化は増加傾向にあるという結果が示されている。1つの後ろ向きコホート研究の結果ではあるが、カルシウム拮抗薬服用と胃食道逆流症の間に多少の関連はあるのかもしれない。
この結果を眺めると、何となくアムロジピンやニフェジピンなどのジヒドロピリジン系の方が、非ジヒドロピリジン系のベラパミル(フェニルアルキルアミン系)や、ジルチアゼム(ベンゾチアゼピン系)より症状悪化は多いような感じがするが、実際のところは分からない。
カルシウム拮抗薬による治療開始前には症状が無かったのに、カルシウム拮抗薬による治療開始後まもなくの症状発現が見られた、また、以前から症状はあったが、カルシウム拮抗薬による治療開始後に症状の悪化が見られた場合は、カルシウム拮抗薬が関与している可能性も疑って対処する必要がありそうである。
個人的には、この症状がカルシウム拮抗薬開始直後なのか、長期に服用し続けた時点なのか、どの時点で現れやすいのかという点についても気になる。
また、もう少しさがしてみると以下のような論文もありました。
Influence of calcium channel blockers in patients with gastrointestinal disease in Japanese community pharmacies.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21395634
PMID:21395634
こちらは、長崎県の調剤薬局5店舗で行われた後ろ向きコホート研究です。
胃腸症状の悪化を、胃酸分泌抑制薬の変更をもとに評価しているようです。
胃酸分泌抑制薬の変更は、カルシウム拮抗薬処方群:53/260件、コントロール群:13/155件で生じたようで、ハザード比=2.22(95%CI:1.25~4.26)という結果だそうです。
アブストラクトしか読めず、詳細は分かりません。H2ブロッカーからPPIの変更も、PPIからH2ブロッカーの変更も胃酸分泌薬の変更という事になるので、胃酸分泌薬変更が症状の悪化とは一概には言えないのではないかとも思いました。それでも、カルシウム拮抗薬と胃食道症状との間に何らかの関連がある事を裏付けるデータの一つにはなるかもしれません。
なかなか、関連する論文がなかなか見つけられずでしたので、他にご存知の方がいらしたら、ぜひご教授頂ければ嬉しいです。
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。