高齢の高血圧患者は収縮期血圧<140mmHgを目指すべきですか?
ご訪問ありがとうございます。
ここのところ、ある事情で高血圧関連の論文を読んでいますが、今回は、VALISH Studyの論文を読んでみました。
参考文献 Target blood pressure for treatment of isolated systolic hypertension in the elderly: valsartan in elderly isolated systolic hypertension study.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20530299
PMID:20530299
研究デザイン:ランダム化比較試験(日本)
論文のPECO
P:収縮期高血圧(収縮期血圧160~199mmHg、拡張期血圧<90mmHg)の70~84歳の高齢者3260名
E:厳格な血圧コントロール(<140mmHgを目指す)→1545名
C:中等度の血圧コントロール(140~150mmHgを目指す)→1534名
O:(Primary) 突然死、致死性・非致死性脳卒中、致死性・非致死性心筋梗塞、心不全による死亡、心血管疾患による予期せぬ入院、腎機能障害(血清クレアチニン値の倍化、透析導入)の複合エンドポイント
(Secondary)Primary outcomeの各項目、総死亡、狭心症の新規発症または悪化
※ファーストステップとしてバルサルタン40~80mg/日を使用。1~2か月で目標血圧値に達しなければ、バルサルタンを160mg上限として増量、その上/または、ARB以外の他の降圧薬が追加(低用量の利尿薬、CBBなど)
※除外基準(以下のリンク先参照)
リンク→ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15750259
・二次性高血圧、悪性高血圧、収縮期血圧≧200mmHg、拡張期血圧≧90mmHg、6か月以内の脳血管疾患または心筋梗塞既往、6か月以内に冠動脈形成術を受けた患者、重篤な心不全(NYHA分類クラスⅢ以上)、重篤な大動脈狭窄または弁膜疾患、心房細動、心房粗動、重篤な風情脈、血清クレアチニン≧2mg/dlの腎機能障害、重篤な肝機能障害、バルサルタンの過敏症
ランダム化されているか?
→ランダム化されている
一次アウトカムは明確か?
→明確といえる
真のアウトカムか?
→真のアウトカム
盲検化されているか?
→PROBE法
均等に割り付けられているか
→おおよそ均等に2群に割り付けられていると思われるが、喫煙はE群が多め。結果に大きく影響するほどではなさそう。
ITT解析を行われているか?
→ITT解析されている(per-protocol analysisもされているが)
サンプルサイズ
→3000名(パワー80%、α=5%)
脱落は結果を覆すほどあるか?
→lost to follow-upは181名:追跡率=94.4%
追跡期間
→平均2.85年、中央値3.07年
結果
【ベースライン】
・平均年齢:E群:76.1±4.1歳 C群:76.1±4.1歳
・血圧:E群:169.5±7.9/81.7±6.6mmHg C群:169.6±7.9/81.2±6.8mmHg
【36カ月後】
・血圧:E群:136.6±13.3/74.8±8.8mmHg C群:142±12.5/76.5±8.9mmHg
【追跡期間終了時点】
・バルサルタン服用量 E群:91.2±36.9 mg/日 C群:88.1±36.8 mg/日
・バルサルタン単独治療 E群:56.1% C群:57.6%
Primary outcome
★突然死、致死性・非致死性脳卒中、致死性・非致死性心筋梗塞、心不全による死亡、心血管疾患による予期せぬ入院、腎機能障害(血清クレアチニン値の倍化、透析導入)の複合エンドポイント
※ITT解析
C群:47/1545件(3.04%)vs C群:52/1534件(3.39%)
HR=0.89(95%CI:0.53~1.36) p=0.383
※per-protocol analysis
HR=1.04(95%CI:0.56~1.93) p=0.894
Secondary outcome
★ハードエンドポインント(心血管死亡、TIAを除く致死性・非致死性脳卒中、致死性・非致死性心筋梗塞)
C群:32/1545件(2.07%)vs C群:37/1534件(2.41%)
HR=0.84(95%CI:0.53~1.36) p=0.484
★総死亡
C群:24/1545件(1.55%)vs C群:30/1534件(1.96%)
HR=0.78(95%CI:0.46~1.33) p=0.362
★心血管死亡
C群:11/1545件(0.71%)vs C群:11/1534件(0.72%)
HR=0.97(95%CI:0.42~2.25) p=0.950
★突然死
C群:6/1545件(0.39%)vs C群:8/1534件(0.52%)
HR=0.73(95%CI:0.25~2.11) p=0.564
★致死性・非致死性脳卒中
C群:16/1545件(1.04%)vs C群:23/1534件(1.50%)
HR=0.68(95%CI:0.36~1.29) p=0.237
★致死性・非致死性心筋梗塞
C群:5/1545件(0.32%)vs C群:4/1534件(0.26%)
HR=1.23(95%CI:0.33~4.56) p=0.761
★予期せぬ入院
C群:12/1545件(0.78%)vs C群:14/1534件(0.91%)
HR=0.84(95%CI:0.39~1.82) p=0.656
★腎機能不全
C群:5/1545件(0.32%)vs C群:2/1534件(0.13%)
HR=2.45(95%CI:0.48~12.64) p=0.267
有害事象
2群間で大きな差なし
感想
ベースとしてバルサルタンを用いた治療の場合、血圧を140mmHg未満にコントロールするのと、140~150mmHgにコントロールするのとで、突然死、致死性・非致死性脳卒中、致死性・非致死性心筋梗塞、心不全による死亡、心血管疾患による予期せぬ入院、腎機能障害(血清クレアチニン値の倍化、透析導入)の複合エンドポイントは変わらないという結果。
36カ月後の血圧の値を見てみると、厳格降圧群と中等度降圧群でその差は収縮期血圧5.6mmHg、拡張期血圧は1.7mmHgと大きな差ではないため、アウトカム発生にも差が見られていないのかもしれない。Secondary outcomeも全て有意差無しとなっている。
そもそもどちらの群においても、Primary outcome発生はそれぞれ3.04%、3.39%とわずかなので、βエラーの可能性もあるのかもしれないが、少なくとも70歳を超える高齢者に対しての降圧は140mmHg未満を目指さなくても、150mmHg未満で十分なのではないかと感じた。
また、関連する以下の論文も気になるので、今後読んでみることにする。
Risks of untreated and treated isolated systolic hypertension in the elderly: meta-analysis of outcome trials.
リンク https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10752701
PMID:10752701
今回も最後までお付き合い頂きありがとうございました。